電鈴ベル)” の例文
「時間厳守は英国紳士の美徳と申します。閣下は海軍ですから、英国流でしょう。僕は九時が鳴る時、玄関の電鈴ベルを押します」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これで、御納得がいったでしょう? 今日まで邸中の電鈴ベルが鳴って、騒ぎ立てたなぞということは、ただの一度もないのです
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
新一は望月少佐に何かささやいておいて、門の扉を開き格子戸に近づくと、柱の電鈴ベルぼたんを三度、妙な調子をつけて押した。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
くゞりから這入ると玄関迄の距離は存外短かい。長方形の御影みかげ石が々々とびに敷いてある。玄関は細い奇麗な格子でて切つてある。電鈴ベルを押す。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
電鈴ベルを押すと、すぐに人が出て来たのは意外だった。迎えてくれたのは、三十四五の、涼しそうな髭を立てた、見るからにすこやかそうな和服姿の紳士だった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つまり、いったん算哲は棺中で蘇生したのだが、その時犯人は山雀のひなを挾んで電鈴ベルの鳴るのを妨げたのだよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
来診を報知らせる電鈴ベルがその時鳴つた、「夜遅く………」とツブヤきながら父は立つて行つた。
耕二のこと (新字旧仮名) / 中原中也(著)
午後六時の執務終了の第一電鈴ベルが百貨店全体にジリリーッ! と響き渡る。彼は鍵を掴んで事務所を飛び出す。洋家具部倉庫の扉締りに行く。これが彼の日課の最後の部分だ。
その瞬間、電車の響も、自動車の音も、人の話声も一時にぴったりとんで、不思議な沈黙が街を占めた。と、突然、静まり返った建物を覆すような、けたたましい電鈴ベルが鳴った。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
駅長のブランド氏は電鈴ベルを押して運輸課長のポッター・フード氏を呼んだ。そして五分間内に手筈をことごとく整えさせた。別仕立の列車は四十五分以内に出発させることが出来る。
すると電話室の方でけたたましく電鈴ベルが鳴った。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
それからその額ぶちのうしろに電鈴ベルが一つある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
その内にやっと発車の電鈴ベルが響いた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ちりん、ちりん」と電鈴ベル真似まね
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と松本君がソロ/\持病を起した頃、電鈴ベルが鳴った、玄関のボーイが社長の到着を知らせてくれるのである。私達は手のものを置いて出迎える。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし、もしこの中の扉に誰か手をかけたが最後、電流が通じてありますから、このやしきの中六カ所で、同時に電鈴ベルが鳴り響く仕組みになっています。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それでもまだ、とつおいつ躊躇したあとで、絹枝さんは毛布の中から、じりじりと、動くか動かぬか分らぬ速度で、右手を電鈴ベルの方へ伸ばして行った。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女はコートの片袖かたそでをするすると脱ぎながら「そうお客扱いにしちゃいやよ」と云った。自分は茶器をすすがせるために電鈴ベルを押した手を放して、彼女の顔を見た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
電鈴ベルが壊れていたので、召使バトラーの室へ花瓶の後始末を頼みに行っていたものですから。ところが、戻ってまいりますと、ダンネベルグ様が寝室の中にいらっしゃるではございませんか
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何故なら、六時の第一電鈴ベルから第二の電鈴までの三十分間は、彼のみに与えられた自由休憩時間——人間的な時間だ! 倉庫の中で記帳執務に疲れた手足をううんと伸す。機械から人間への還元だ。
記者は一寸考えてから、その電鈴ベルを押して見た。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
突然、電鈴ベルが鳴った。電話だ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしが出し入れする時は、そのスイッチを切ってから扉を開けますから、電鈴ベルは絶対に鳴りません。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
扉の上部に取り付けられた電鈴ベルが鋭どい音を立てた時、彼は玄関の突き当りの狭い部屋から出る四五人の眼の光を一度に浴びた。窓のないそのへやは狭いばかりでなく実際暗かった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
安斉先生は学監室へ戻るとまもなく、電鈴ベルを鳴らした。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
が、その時、開幕の電鈴ベルが鳴った。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
電鈴ベルの鳴った時申し合せたように戸口をふり向いた彼らは、一瞥いちべつのちまた申し合せたように静かになってしまった。みんな黙って何事をか考え込んでいるらしい態度で坐っていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と赤石さんは電鈴ベルを鳴らして女中を呼んで
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
薄紅色ときいろに深く唐草からくさを散らした壁紙に、立ちながら、手頃に届く電鈴ベルを、白きただ中に押すと、座に返るほどなきにこたえがある。入口の戸が五寸ばかりそっとく、ところを振り返った母が
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
押した電鈴ベルに応じて
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
玄関には西洋擬せいようまがいの硝子戸ガラスどが二枚ててあったが、頼むといっても、電鈴ベルを押しても、取次がなかなか出て来ないので、敬太郎けいたろうはやむを得ずしばらくそのそばに立って内の様子をうかがっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女が後を向いた様子、電気を消してあがくちの案内を閉塞へいそくした所作しょさ、たちまち下女を呼び寄せるために鳴らした電鈴ベルの音、これらのものを綜合そうごうして考えると、すべてが警戒であった。注意であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
格子先こうしさき電鈴ベルに手が届かないくらいの一構ひとかまえであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)