閑古鳥かんこどり)” の例文
かつをも裏長屋まで行渡つて、時鳥ほとゝぎすも珍らしくはなく、兩國橋を渡つて、大川の上手へ出ると、閑古鳥かんこどり行々子よしきりも鳴いてゐた時代です。
林の中では閑古鳥かんこどりが鳴いてゐた。閑古鳥の声を良寛さんはきいた。谿たにに下れば瀬の音がすずしかつた。瀬の音を良寛さんはたのしんだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
山鶯やまうぐいすだの、閑古鳥かんこどりだのの元気よくさえずることといったら! すこし僕は考えごとがあるんだからだまっていてくれないかなあ、と癇癪かんしゃくを起したくなる位です。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
生駒いこま郡竜田町の南方に車瀬という処に森がある。それが伊波瀬の森である。喚子鳥よぶこどりは大体閑古鳥かんこどりの事として置く。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その大凡おおよその時間がきまっているのであろう。もう来そうなものだと思うが、なかなかやって来ない。どこかで閑古鳥かんこどりの声がする、という山里の光景である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
連日の戦とはいっても、それはこの広い城郭にあっては、大手の正面だけのことで、ここの搦手といったら、ほとんど、閑古鳥かんこどり昼時鳥ひるほととぎすの声さえするほどじゃくとした天嶮だった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皆淋しいお山の閑古鳥かんこどりだ。うすら寒い秋の風が蚊帳の裾を吹いた。十二時だ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
五〇 死助しすけの山にカッコ花あり。遠野郷にても珍しという花なり。五月閑古鳥かんこどりくころ、女や子どもこれをりに山へ行く。の中にけて置けば紫色むらさきいろになる。酸漿ほおずきのように吹きて遊ぶなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
津々浦々つつうらうら渡鳥わたりどり稲負いなおおどり閑古鳥かんこどり。姿は知らず名をめた、一切の善男子ぜんなんし善女人ぜんにょにん木賃きちん夜寒よさむの枕にも、雨の夜の苫船とまぶねからも、夢はこのところに宿るであろう。巡礼たちが霊魂たましいは時々此処ここに来てあすぼう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「左様——さびしさや何がいても閑古鳥かんこどり
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うき我を淋しがらせよ閑古鳥かんこどり 芭蕉
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
閑古鳥かんこどりかいさゝか白き鳥飛びぬ
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
いま、夢に閑古鳥かんこどりを聞けり。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
雲雀ひばりは空気を震動させて上天の方にゐるかとおもふと、閑古鳥かんこどりは向うの谿間たにまから聞こえる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
かかる山ですから好んで夜旅を試みる者もなく、ふもとより早く暮れ、星を見れば駒木根川へ落つる水の音と、高尾にむという閑古鳥かんこどりの鳴く声のほか、絶えて往来を見ないのが常です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて閑古鳥かんこどりがしきりに啼いて、水田苗代なわしろの支度を急がせる。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
閑古鳥かんこどり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
山は医王山いおうざん幽翠ゆうすいを背負って、閑古鳥かんこどりでもきそうにさびていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)