とこしな)” の例文
熱情詩人、我がキヨルネルの如きは、この沈雄なる愛国の精神を体現して、其光輝とこしなへに有情の人を照らすの偉人と被存候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
美くしいもののなかによこたわる人の顔も美くしい。おごる眼はとこしなえに閉じた。驕る眼をねむった藤尾のまゆは、額は、黒髪は、天女てんにょのごとく美くしい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まあ、この小舎は、ちょうどこの沙原を通る旅人の命を取るためにとこしなえに解らない謎となって、この沙漠に建てられた小舎だということを知らない。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
よろしくこのにとどまってこの家運を守り給えばとこしなえに龍王ルーけ給うべき幸福は尽きることはございますまい
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
松が小島、離れ岩、山は浮世を隔てて水はとこしなえに清く、漁唱菱歌ぎょしょうりょうか煙波縹緲えんぱひょうびょうとして空はさらにゆうなり。倒れたる木に腰打ち掛けて光代はしばらく休らいぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
只〻塵の世に我が思ふ人のとこしなへにけがれざれ。戀に望みを失ひても、世を果敢はかなみし心の願、優に貴し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
両人ともに言葉なくたゞ平伏ひれふして拝謝をがみけるが、それより宝塔とこしなへに天に聳えて、西よりれば飛檐ひえん或時素月を吐き、東より望めば勾欄夕に紅日を呑んで、百有余年の今になるまで
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
築地つきぢ二丁目の待合「浪の家」の帳場には、女将ぢよしやうお才の大丸髷おほまるまげ、頭上にきらめく電燈目掛けて煙草たばこ一と吹き、とこしなへにうそぶきつゝ「議会の解散、戦争の取沙汰とりざた、此の歳暮くれをマアうしろツて言ふんだねエ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
父はこの月の七日なぬか、春雨さむきあした逝水せいすい落花のあわれを示し給いて、おなじく九日の曇れる朝、季叔すえのおじの墓碑と相隣れるところとこしなえに住むべき家と定めたまいつ。数うれば早し、きょうはその二七日ふたなぬかなり。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人生の須臾しゅゆなるを痛んで、青年は一幅の画中にとこしなえにうら若きの少女を書き入れんとひとみを森の彼方に送る刹那せつな、いつもの悲しき、嬉しき歌の声がきこえた。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「その次にね——出ずるかと思えばたちまち消え、いてはとこしなえに帰るを忘るとありましたよ」細君は妙な顔をして「めたんでしょうか」と心元ない調子である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世を捨てし昔の心を思ひ出せば、良しや天落ち地裂くるとも、今更驚く謂れやある。常なしと見つる此世に悲しむべき秋もなく、喜ぶべき春もなく、青山白雲とこしなへに青く長へに白し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
両人ともに言葉なくただ平伏ひれふして拝謝おがみけるが、それより宝塔とこしなえに天にそびえて、西よりれば飛檐ひえんある時素月を吐き、東より望めば勾欄こうらん夕べに紅日を呑んで、百有余年の今になるまで
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
児は、とこしなえに眠ってしまった。再び泣きはしない。このまま静かに地の中に入って眠るのだ。女は、木の葉の動くのを見て別に涙も出さなかった。女は、鍬を採った。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの顔をたねにして、あの椿の下に浮かせて、上から椿を幾輪も落とす。椿がとこしなえに落ちて、女が長えに水に浮いている感じをあらわしたいが、それがでかけるだろうか。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)