邸内やしきうち)” の例文
かくよく廿二日のあさ嘉川家の人々藤三郎のみえざるを不審ふしんに思ひし所藤五郎を入れ置きしをりやぶれ其上伴建部等も居らざれば大いに驚きさわ邸内やしきうちの者共を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「お邸内やしきうちのおなり御殿ごてんは、おととしから去年にかけて竣工できあがっているが、またことしの春も、おなりがあるというので、庭のお手入れだ。大したものだぜ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい、お邸内やしきうちでございます。これからぢきに見えまする、あの、倉の左手に高いもみの木がございませう、あの陰に見えます二階家が宅なのでございます」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
四番よばんめの大伴おほとも大納言だいなごんは、家來けらいどもをあつめて嚴命げんめいくだし、かならたつくびたまつていといつて、邸内やしきうちにあるきぬ綿わたぜにのありたけをして路用ろようにさせました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
「以前あすこに別に邸があったのだろうか。それとも、昔はあの辺もこの邸内やしきうちだったのかも知れないね」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いつか車は、冠木門かぶきもんの大きな邸内やしきうちへ入って砂利を敷いたなだらかな傾斜を登っている。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
膝下ひざもとへ呼び出して、長煙草ながぎせる打擲ひっぱたいて、ぬかさせるすうではなし、もともと念晴しだけのこと、縄着なわつき邸内やしきうちから出すまいという奥様の思召し、また爺さんの方でも、神業かみわざで、当人が分ってからが
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それにたよっている人は恨むことがあっても、ただみずからの薄命をなげく程度のものであったから源氏は気楽に見えた。何年かのうちに邸内やしきうちはいよいよ荒れて、すごいような広い住居すまいであった。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「まあ、い景色ですことね! 富士が好く晴れて。おや、大相木犀もくせいにほひますね、お邸内やしきうちに在りますの?」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
附添さへあるまらうどの身にして、いやしきものにあつかはるる手代風情ふぜいと、しかもその邸内やしきうちこみちに相見て、万一不慮の事などあらば、我等夫婦はそも幾許いかばかり恥辱を受くるならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)