遂行すいこう)” の例文
兎も角、簡単に説明するとね、我々の心に絶えず起って来る慾望というものは、その大部分は遂行すいこうされないでほうむられてしまう。
疑惑 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それを忠実に遂行すいこうするに要する努力の興奮剤としてチューインガムを使用しているとすれば、いくらか尤もらしく思われて来るのである。
チューインガム (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
約束の履行りこうなどという事は、最初から深く考えなかったのみならず、遂行すいこうの時期が来た時分には、もうそれを忘れていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそれも遂行すいこうおおせたわけではない。今からでも花田を射殺する決心になれば、そして何食わぬ顔をして原隊に戻れば、誰も知るものはない。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
すべて竜神りゅうじんには竜神りゅうじんとしての神聖しんせい任務つとめがあり、それが直接ちょくせつ人間界にんげんかい利益ためになろうが、なるまいが、どうあっても遂行すいこうせねばならぬことになっている。
ゆえに、男湯の方の感電を計画し、またそれを遂行すいこうするための技術上の操作は、十分間も要さずに易々やすやすと行われた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その国家意思の遂行すいこうについての最高の指導をするのが政治で、その政治によって決定された国家意思を、その政治の指導の下で実現し遂行してゆくのが行政である。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
雪之丞は、今は、目的の遂行すいこうにいそがねばならぬのだった——追ッかけられるような不安が、いつも落ちつきを失わぬ彼の胸をも、いらいらと焦り立たせるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ただ特別なる場合、たとえば来客らいきゃくとか病気とかの時のごときには、明らかなる意思を立てて遂行すいこうするも必要だが、たいていの場合にはどちらでも差支えないことが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
当家の家老官兵衛を、そちらへ使者としてさし向けたが、この者は由来強硬なる織田方の執心者しゅうしんしゃ故、この者あるうちはとかく毛利家とも尊兄そんけいとの盟約めいやく遂行すいこういたし難い。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしはただこの紙に記されてあることを忠実に遂行すいこうすることを上役から命じられたにすぎない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
恐らく自分の使命が或る程度まで遂行すいこうされ、而もそれ以上は最早や実現不可能であるとて取った或る時期に、自らやいばに伏してそのかばねを金掘りのそれと同じ暗黒裡あんこくりうず
「本官は貴官に重大な命令を与える。事の成否は帝国の安危あんきかかっている。仁科少佐は、天皇陛下並に日本帝国の為、万難を排し、身命をなげうって任務を遂行すいこうする事を欲する」
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
その城の中から外側の自分を牽制けんせいし、操り、たとえ自分の身に済まぬことでも、その秘密の城を守ることの為めなら、その秘密の城の中で計画たくらまれたことの遂行すいこうの為めなら
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
普通人のようにシッカリした足取りで、普通人以上に巧妙な智慧を使って、複雑深刻を極めた犯罪を遂行すいこうする事があると、記録にも残っているくらいですがまさにその通りです。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
開塾式を明日にひかえた今、何といっても、かれにとっての最大の関心事は、塾堂生活のことであり、朝倉先生夫妻の助手としてのかれの任務を手落ちなく遂行すいこうすることであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
誰も指をさす者のない勝安房守かつあわのかみであることが、虎の威光となっているのに、それを眼中におかず、ことに外国船引揚げというような難事業を、彼等一旗で遂行すいこうしようという振舞が言語道断である。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あなたから見たら、これが義務の遂行すいこうを重んずる私の性格のように思われるかも知れません。私もそれはいなみません。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その目的である活動写真撮影を完成し、ねて恋愛の復讐か何かを遂行すいこうしたものであろう。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
具体的に個々の衣服きものについて始めてあたいがきまるのである。単に衣服きものというただけでは何とも決することが出来ぬ。それと同じく遠慮と遂行すいこうの程度は概括的に定めることはほとんど不可能である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ただに君家のえんをはらしたと云うのみでなく、の衆の示した親子の大愛、うるわしき友の友誼ゆうぎ忍苦にんく、潔白、しかも止むなく目的の遂行すいこうには、法に触れるを得なかったにせよ、前後の行動には
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
必竟ひっきょう私にとって一番楽な努力で遂行すいこうできるものは自殺よりほかにないと私は感ずるようになったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それは、閣下に代って、わたくしが遂行すいこういたしました。閣下から信頼を受けてあの重大任務をおうちあけ願っていなかったら、わが国史上に、一大汚点を印するところでありました」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを遂行すいこうするにも、白昼公然ではなく、いつも、夜陰、あるいは人目のない所で行われるので、世間は知らないが、家中では、そういう嫌疑者の多くを上げてくることが、すこぶるほまれであり
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俺は何事にも柔であると一貫して遂行すいこうすることも出来ぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
買ってきて、まだ目的を遂行すいこうしないうちに、友だちが金を借りにきた。金はないと断ったが、ぜひどうかしてくれと訴えるので、しかたなしに、大事の短銃を貸してやった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自己の優勢なる事はこの手段を遂行すいこうしたのちに必然の結果として起る現象に過ぎん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
移る前に、好い機会だからちょっと東京まで出たいものだと考えているうちに、今度もいろいろの事情に制せられて、ついそれも遂行すいこうせずに、やはり下り列車の走るかたに自己の運命を托した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)