談柄だんぺい)” の例文
唯、何時いつもよりも口数が少くなつて、ややもすると談柄だんぺいを失しがちである。そこで津藤は、これを嫖客へうかくのかかりやすい倦怠アンニユイだと解釈した。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
青木外務大臣夫人の賞品七宝しっぽう花瓶とは、馬見所の玄関に飾られ、誰人がこの名誉の賞品をうべきかは、当場所第一の談柄だんぺいなりき。
通を曲って横町へ出て、なるべく、話の為好しいしずかな場所を選んで行くうちに、何時か緒口いとくちが付いて、思うあたりへ談柄だんぺいが落ちた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さるにても、季節中の魅惑たる花合戦、花馬車競技も、もはや旬日の間に迫ったることとて、衆口談柄だんぺいは期せずしてその品隙とりざたに移って行く。
談柄だんぺい必ず肉体の区域に入りて、見苦しく聞き苦しきものは十中の七、八なるべし。畢竟ひっきょう我が人文のなお未だ鄙陋ひろうを免れざるの証として見るべきものなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
夕飯もてなされて後、燈下の談柄だんぺいは歌の事で持ちきった。四つのひたいは互に向きおうて居る。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
第六囘だいろくくわいいたりてはじめて、殺人さつじん大罪だいざいなるかいなかの疑問ぎもん飮食店いんしよくてん談柄だんぺいより引起ひきおこし、つい一刹那いつせつなうかいださしめて、この大學生だいがくせいなんあだもなき高利貸こうりかし虐殺ぎやくさつするにいたる。だいくわいその綿密めんみつなる記事きじなり。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
とほりまがつて横町へて、成るく、はなし為好しいしづかな場所を撰んで行くうちに、何時いつ緒口いとくちいて、思ふあたりへ談柄だんぺいが落ちた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼は、談柄だんぺいを、生活難に落して、自分の暮しの苦しさを、わざわざ誇張して、話したのは、まったく、この済まないような心もちに、わずらわされた結果である。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただそのうちのどこかにおちつかないところがある。それが不安である。歩きながら考えると、いまさき庭のうちで、野々宮と美禰子が話していた談柄だんぺいが近因である。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俊助は何をいても、この場合この話題が避けたかった。そこで彼は大井の言葉がまるで耳へはいらないように、また談柄だんぺいをお藤さんなる給仕女の方へ持って行った。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
兎に角、談柄だんぺいはそれからそれへと移つて、酒もさかな残少のこりずくなになつた時分には、なにがしと云ふ侍学生がくしやうが、行縢むかばきの片皮へ、両足を入れて馬に乗らうとした話が、一座の興味を集めてゐた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それが不安である。あるきながら考へると、いまさきにはのうちで、野々宮と美禰子が話してゐた談柄だんぺいが近因である。三四郎は此不安の念をる為めに、二人ふたりの談柄を再び剔抉ほぢくり出して見たい気がした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おや、あれは君、辰子たつこさんに似ているじゃないか。」と、意外な方面へ談柄だんぺいを落した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)