誰人たれ)” の例文
みな有為な浄い青年達でした。その十二人の勝れた弟子達の一人がクリストを官府に売り渡そうとは誰人たれも思わなかったでしょう。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
誰人たれも思いよらなかったおり(死の六年前に)医学博士佐々木東洋氏が「この肩の凝りが下へおりれば命取りだから大事にせよ」
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
盲人は懐旧の念に堪えずや、急に言葉を止めて頭を垂れていたが、しばらくして(聴者ききて誰人たれなるかはすでに忘れはてたかのごとく熱心に)
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
輕氣球けいききゆううへでは、たちま吾等われら所在ありか見出みいだしたとへ、搖藍ゆれかごなかから誰人たれかの半身はんしんあらはれて、しろ手巾ハンカチーフが、みぎと、ひだりにフーラ/\とうごいた。
そうした原因を作る誰人たれがいたのであろうか——加害者は誰であろう——と、声をおひそめになるでございましょう。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
誰人たれも藤十郎の偽りの恋の相手が、貞淑の聞え高いお梶だとは思いも及ばなかった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「神も仏もない世であろうか。右衛門さんが殺されるのにわたしは一足も歩くことが出来ない。おお恐ろしい恐ろしい! 誰人たれかお助けくださりませ! 助けて! 助けて! 助けて!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかるにいわゆる平民なる一般国民に比してより高き教育を受けたやからである、随って彼らは名誉ある位置を占め、社会の尊敬を受けるものであるから、誰人たれも士たらんことを望むであろう。
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
したがって安兵衛には、何だかいっこうにわからないが、その場の出幕以外に、絶えて通しの筋趣向というものを、終了おちまでは誰人たれにも明かしたことのないいつもの文次親分を知っているから、安も
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
猛狒ゴリラや、獅子しゝや、とらるい數知かずしれずんでつて、わたくしやう無鐵砲むてつぽう人間にんげんでも、とてもおそろしくつてけぬほどだから、誰人たれだつて足踏あしふみ出來できませない。
誰人たれも思うところであるし、寛治氏が妻をいとしむ心が深ければ、そうした欠陥が穿うがたれるはずはないとも思うことでもあるが、人間は生ているかぎり——わけても女性は感情に支配されやすい。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしその根源にいたっては誰人たれも知ることは出来ない。それを知るものは平一郎の内なる平一郎を生みたる宇宙の力そのものである。そしてそれは人間の言葉としては表現出来ないものである。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
先刻せんこく一目ひとめ誰人たれかにるとおもつたのはそのはづよ、たれあらう、この艦長かんちやうこそ、春枝夫人はるえふじん令兄れいけい日出雄少年ひでをせうねん叔父君おぢぎみなる松島海軍大佐まつしまかいぐんたいさであつたのかと。