蒼黒あをぐろ)” の例文
背景にふねほばしらを大きくいて、其あまつた所に、際立きはだつて花やかなそらくもと、蒼黒あをぐろみづの色をあらはしたまへに、裸体らたいの労働者が四五人ゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
蒼黒あをぐろい顔で、髪は枯草のやうに乱れ、額に大きな黒子ほくろがあつた。白いYシャツに、灰色の洋袴ズボンをはいて素足である。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
見ますとそれは大きな空の宝石のやうにだいだいや緑やかゞやきの粉をちらしまぶしさに眼をつむりますと今度はその蒼黒あをぐろいくらやみの中に青あをと光って見えるのです
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
蒼黒あをぐろいむくんだ顏を見ただけでも、これはなか/\の容體といふことが、素人の平次にもわかります。
そのそらあかるみをうつみづや、處處ところどころ雜木林ざふきばやしかげ蒼黒あをぐろよるやみなかあがつてした。わたしはそれをぢつと見詰みつめてゐるうちに、なんとなく感傷的かんしやうてき氣分きぶんちてた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
腹に虫でもいてゐるやうな、蒼黒あをぐろい眼であつた。都和井のぶと云つた。良人が戦死して、九年になるのださうだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
其所そこにはたかさ二しやくはゞしやくほどわくなかに、銅鑼どらやうかたちをした、銅鑼どらよりも、ずつとおもくてあつさうなものがかゝつてゐた。いろ蒼黒あをぐろまづしいらされてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
襖を開けると、加野は汚れた手拭で鉢巻きをして毛布をかぶつて寝てゐた。裸電気が、まるで氷の袋のやうに、加野の頭の上でゆらゆらゆれてゐる。むくんで蒼黒あをぐろい顔をしてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)