みずから)” の例文
その時あたかも牡丹の花生けの傍に置いてあつた石膏せっこうの肖像を取つてその裏に「みずからだいす。土一塊牡丹生けたるその下に。年月日」
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ここにせめては其面影おもかげうつつとどめんと思いたち、亀屋の亭主ていしゅに心そえられたるとは知らでみずから善事よきこと考えいだせしように吉兵衛に相談すれば、さて無理ならぬ望み
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くど/\二言ふたこと三言みこと云うかと思うと、「それじゃまた」とお辞儀じぎをして往ってしまった。「弟が発狂した」が彼の口癖くちぐせである。弟とはけだし夫子ふうしみずからうのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
愛児を失ったホーキン氏はみずから一隊を引率し、海岸に添って南の方へ飛ぶようにして、下って行った。
彼は日記帳に彼の胸中を説いて、やっとみずから慰めたくらいである。彼は断念あきらめようと思った、しかしこれは彼のなし得るところではなかった。そこに無限の苦は存するのだ。かくて二歳ふたとせは流れた。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
若き空には星の乱れ、若きつちには花吹雪はなふぶき、一年を重ねて二十に至って愛の神は今がさかりである。緑濃き黒髪を婆娑ばさとさばいて春風はるかぜに織るうすものを、蜘蛛くもと五彩の軒に懸けて、みずからと引きかかる男を待つ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みずからの作りし大それた罪におび
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
みずからふるを着、やぶれたるをまと
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩石ヶ城へはみずから好んで捕われ参ったのでござります。私の使命は芳江姫を助け出すことにござります。姫君お帰りなき時は葡萄大谷ぶどうおおや谿国けいこくは自滅するのでござりますぞ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こうとして一人みずからたたずむ時に花香かこう風に和し月光げっこう水に浮ぶ、これが俳諧の郷なり(略)
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
謎の女はみずからを情ない不幸の人と信じている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みずからの頭にたえず計いを
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)