自然石じねんせき)” の例文
自然石じねんせき形状かたち乱れたるを幅一間に行儀よく並べて、錯落さくらくと平らかに敷き詰めたるこみちに落つる足音は、甲野こうのさんと宗近むねちか君の足音だけである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
脱いだ合羽を片腕に垂らして、お米のほうへ目をくれながら、自然石じねんせきの石段をのぼって、向うの役宅の庭へ廻って行った。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがさ、石地蔵と申し伝えるばかり、よほどのあら刻みで、まず坊主形ぼうずなり自然石じねんせきと言うてもよろしい。妙に御顔おかおの尖がった処が、拝むとすごうござってな。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高さ二尺ばかりなる自然石じねんせきかくにしてうつくしき石塔一ツ流れきたる、まこと彫刻てうこくせるごとくにて天然てんねんの物なり。
周囲ぐるりにはほどよく樹木じゅもくえて、丁度ちょうど置石おきいしのように自然石じねんせきがあちこちにあしらってあり、そして一めんにふさふさした青苔あおごけがぎっしりきつめられてるのです。
三人が、少し歩き疲れて、片陰の大きいならの下の自然石じねんせきの上に、腰を降した時だった。先刻から一言も、口を利かなかった瑠璃子が、突然青年に向って話し出した。しかも可なり真剣な声で。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
可成り広い池の対岸むこうがわに、自然石じねんせきを畳んで、幅二間、高さ四間ほどの岩組とし、そこへ、幅さだけの滝を落としているのであって、滝壺たきつぼからは、霧のような飛沫しぶきが立っていたが、池の水は平坦たいらに澄返り
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
里道との辻に立つた自然石じねんせきの常夜燈が、寂しく夕陽を浴びてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
一年ほどして、そこに自然石じねんせきの石碑が建てられた。表には林清三君之墓、下に辱知有志じょくちゆうしきざんであった。荻生さんと郁治いくじとが奔走して建てたので、その醵金者きょきんしゃの中には美穂子も雪子もしげ子もあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
墓所といっても、大きな栗の木の下に、丸い自然石じねんせきが一つ、ぽつねんとあるだけで、ほかに塔婆とうば一つない山だった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高さ二尺ばかりなる自然石じねんせきかくにしてうつくしき石塔一ツ流れきたる、まこと彫刻てうこくせるごとくにて天然てんねんの物なり。
永谷寺へ入院じゆゐん住職じゆうしよくあれば此ふち血脉けちみやくげ入るゝ事先例せんれいなり。さて此永谷寺の住職遷化せんげ前年ぜんねん、此ふちよりはかの石になるべきまる自然石じねんせきを一ツきしいだす、これ無縫塔ふほうたふと名づけつたふ。
永谷寺へ入院じゆゐん住職じゆうしよくあれば此ふち血脉けちみやくげ入るゝ事先例せんれいなり。さて此永谷寺の住職遷化せんげ前年ぜんねん、此ふちよりはかの石になるべきまる自然石じねんせきを一ツきしいだす、これ無縫塔ふほうたふと名づけつたふ。