)” の例文
故アーネスト・ハートなどは、人と語る中ややもすれば句切り同然に放っていたが、それは廉将軍の三遺失に等しく、ひどれたのだ。
けなさるな——と言外に含ませて、老人の幻想はむざんに壊された。彼の惨憺さんたんたる思いは、顔のかたちをありありとゆがめていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「は、は、は、わしも、もう六十——少しけているかも知れぬが、まだまだ、大事なことは、そう度忘れもせぬようじゃ。は、は、は」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それをじっとして聞いているおせいはさすがに父が哀れになった。五十二というのに、その人は六十以上に老いけていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
正雄もお庄も、型の古いその帽子を冠って、三等客車に乗り込んで行く、叔父の、やつれてけたような姿を見て、後からくすくす笑っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
けもせず、からだも壮健なのに、哥薩克の長劔は手から毮ぎ取られ、なすこともなく日を送つて、我れながら何のために生きてゐるのか分らないのだ。
わたし乳首ちゝくび苦艾にがよもぎまぶって鳩小舍はとごや壁際かべぎは日向ひなたぼっこりをして……殿樣とのさま貴下こなたはマンチュアにござらしゃりました……いや、まだ/\きゃしませぬ。
けた二人のばあ様問答をおかしがり興にのって「さようであります」と兵卒のような口調を真似て伸子を笑わせた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「おい、れ! 娘を借りようかの。このとおり、野郎ばかりでらちの明かぬところ。酒の酌が所望じゃ——。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
先生の容貌ようぼうが永久にみずみずしているように見えるのに引きえて、先生の書斎はった色で包まれていた。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
背戸せどつて御覽ごらんなさい、と一向いつかう色氣いろけのなささうな、腕白わんぱくらしいことをつてかへんなすつた。——翌日よくじつだつけ、御免下ごめんくださアい、とけたこゑをして音訪おとづれたひとがある。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この年寄って病みけているわしを、この上この苦しい世のなかにながらえさせるのをふびんとおぼしめしてくださるのであろう。わしももうずいぶん長く生きたからな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
だが、もう一とき時が経ちますと、蕋も花弁も分ちなく月日に老い痴れ、照る陽にただれて、桃の盛りも知らぬげに、弥生やよいの空に点じ乱れて、濛々もうもうの夢に耽っております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まだ、五十そこそこの年輩ですが、正直者らしい代り、ひどいけようです。
老いれて世に残るよりは
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かなしみにけてしまった初老の女は、たくましい男にうしろをかかえられ、夜風の戸外に連れだされた。その跡にはかみしも姿の高倉祐吉がぴたりと坐っていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「どうも、けて来たちふものかな!……」と、カレーニクは腰掛の上へ横になりながら呟やいた。
半ばけ果てた、落ちぶれ者の父親とたった二人、親類からも友達からも、すっかり見捨てられ尽くして、明日のたつきにも、こうじ果てていた時、その頃これも名を成さず
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
まだ、五十そこ/\の年輩ですが、正直者らしい代り、ひどいけやうです。
規矩男は父をうも観察した。女の子が生れてすぐ死に、二番目の規矩男が生れたときは、父親は既にまったく老境に入って、しかも、永年の飲酒生活の結果は、けて偏屈にさえなっていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
実際、もういい加減に身の程を知つてもいい頃ぢや。実を言へば、そろそろ村でも、わしのことを哂笑わらひだしをつたのぢや。その言ひ草が、⦅ほいほい、老爺ぢいさんもすつかりけてしまつたよ。
「お蔭で、まだそれほどけちあゐねえよ。」と、教父クームが言つた。「あいつのゐるとこへ、のめのめと帰えつて堪るもんけえ。おほかた夜明けまで婆あ仲間とほつつき𢌞つてやがるだらうよ。」