羞恥しうち)” の例文
人の好い明子の父親は、嬉しさうな微笑を浮べながら、伯爵とその夫人とへ手短てみじかに娘を紹介した。彼女は羞恥しうちと得意とをかはがはる味つた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
若旦那わかだんな氣疲きつかれ、魂倦こんつかれ、ばうとしてもつけられず。美少年びせうねんけたあとを、夫婦ふうふ相對あひたいして見合みあはせて、いづれも羞恥しうちへず差俯向さしうつむく。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
勘次かんじ羞恥しうち恐怖きようふ憤懣ふんまんとのじやうわかしたがそれでも薄弱はくじやくかれは、それをひがんだ表現へうげんしてひとごと同情どうじやうしてくれとふるがごとえるのみであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それだからこそ彼れはあの秘密な行為を私から発見された時、異常な羞恥しうちを感じてたじろいだのであらう。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
んだ髮や贅澤ぜいたくな着物を捨てゝ、羞恥しうちと誠實を身に付けるようにと云ひきかせることが私の使命だ。
洋娼等はしきりに僕等の一行を呼掛けたが、日本娼婦は流石さすがに同国人に対して羞恥しうちを感じるらしくいづれも伏目になつて居るのが物憐れで、これが夜にれば猿芝居の猿の如く
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
と同時に私は自分の表情にへばりつく羞恥しうちの感情にさいなまれて香川を見てはゐられなかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
彼はそれを、貸借たいしやくに関係した羞恥しうち血潮ちしほとのみ解釈かいしやくした。そこではなしをすぐ他所よそそらした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
然し一日も休まぬといふことを何よりの誇りとしてゐる仲間の方では恐らく彼のやうな怠け者の姿をよしや見附けたところで見ぬふりして過ぎたはずである——彼の顔面は懶惰らんだ羞恥しうちで堅くなつてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
四十女の頬には赤黒い羞恥しうちの色が浮びました。
自分は烈しい羞恥しうちの心が起る
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
それを見ると、私は妙にへどもどして、悪い事でも見つけられた時のやうな、一種の羞恥しうちに襲はれてしまつた。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私は、彼女が困惑と羞恥しうちで色を失ふだらうと豫期してゐたが、驚いたことには、泣きもしなければ、顏を赧らめもしなかつた。眞摯まじめではあつたが、落ちついて立つてゐた。
予は予自身に対して、名状し難き憤怒ふんぬを感ぜざるを得ず。その憤怒たるや、あたかも一度遁走とんそうせし兵士が、自己の怯懦けふだに対して感ずる羞恥しうちの情に似たるが如し。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)