絹地きぬじ)” の例文
そのむすめは、がさをりてさしてみました。そして、あおぎますと、うすい絹地きぬじをとおして太陽たいようひかりが、まばゆく、かおうえうつるようながしました。
日がさとちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
私は先年、秋田県の花輪はなわ町の物屋ものやたのんで、絹地きぬじにこの紫根染しこんぞめをしてもらったが、なかなかゆかしい地色じいろができ、これを娘の羽織はおりに仕立てた。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
三千子は、脳裡のうりに、絹地きぬじに画かれたこの鬼仏洞の部屋割の地図を思いうかべた。彼女は、今は躊躇ちゅうちょするところなく、第一号室へとびこんだのであった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それではこれで、いよいよ締め切りに……エエ石川左近将監いしかわさこんしょうげんどのより、四つ。ほかに、長船おさふねの刀一ふり一石飛騨守様いっこくひだのかみさまより五つ半、および絹地きぬじ五反。堀口但馬ほりぐちたじまさまより——
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
画工 (枠張わくばりのまゝ、絹地きぬじを、やけにひもからげにして、薄汚うすよごれたる背広の背に負ひ、初冬はつふゆ、枯野の夕日影にて、あか/\とさみしき顔。へる足どりにて登場)……落第々々、大落第おおらくだい
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
四方の壁という壁が、すっかり絹地きぬじへかいた日本画でうずまっている。草花の画がある、かわいい子供の人物画がある、花のさいた田舎いなかの風景画がある。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いつか、青年せいねんが、行商ぎょうしょうにきた時分じぶんってきたような、あお貝細工かいざいくや、ぎんのかんざしや、口紅くちべにや、香油こうゆや、そのほかおんなたちのきそうなあか絹地きぬじや、淡紅色うすべにいろぬのなどであったのです。
北の不思議な話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
野火やか炎々えんえん絹地きぬじに三羽の烏あらはる。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
南方なんぽうよるは、あたたかで、つき絹地きぬじをすかしてるように、かすんでいました。
砂漠の町とサフラン酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから生駒いこまたきの前で戸倉老人にめぐりあい、黄金おうごんメダルの半かけと絹地きぬじにかいた説明書をもらったことから、メダルを失ったことまで、残りなくすべてのことを金谷先生にうちあけた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)