立籠たちこ)” の例文
夕立雲ゆふだちぐも立籠たちこめたのでもなさゝうで、山嶽さんがくおもむきは墨染すみぞめ法衣ころもかさねて、かたむらさき袈裟けさした、大聖僧だいせいそうたいがないでもない。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
長い橋の中ほどに立って眺望をほしいままにすると、対岸にも同じような水門があって、その重い扉を支える石造の塔が、折から立籠たちこめる夕靄ゆうもやの空にさびしくそびえている。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ロミオ おれかくれぬ。むね惱悶なやみうめきのいききりのやうに立籠たちこめて追手おってふさいだららぬこと。
人々は、壁の所の椅子に凭れて、煙を、部屋中に立籠たちこめながら、話声を、充満させていた。
ロボットとベッドの重量 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それに車内に濛々もうもう立籠たちこめた煙草の煙、それらの中で杜絶とぎれ杜絶れにしか聞えなかったが、行儀の悪い乗客達が食べるだけ食べて、ちらかすだけ散かして、居睡りを始める頃になると
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
森の中では、幾層にも木の葉が重り合って、空を見ることは出来ませんけれど、でも、全く闇というではなく、黄昏時たそがれどきのほのかなる微光が、もやの様に立籠たちこめて、行手が見えぬ程ではありません。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
(鐘の音)……あれは寺々が夕方の勤行ごんぎょうの始まりをしらせる鐘の音だ。御覧ごらん。太陽が西に傾いた。黄昏たそがれが平安の都大路みやこおおじ立籠たちこめ始めた。都を落ちて行くものに、これほど都合つごうのよい時刻はあるまい。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
土間どまは一面の日あたりで、盤台はんだいおけ布巾ふきんなど、ありったけのもの皆濡れたのに、薄く陽炎かげろうのようなのが立籠たちこめて、豆腐がどんよりとして沈んだ、新木あらきの大桶の水の色は、うすあお
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
濛々もうもう立籠たちこめた灰神楽があった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
土間どま一面いちめんあたりで、盤臺はんだいをけ布巾ふきんなど、ありつたけのものみなれたのに、うす陽炎かげろふのやうなのが立籠たちこめて、豆腐とうふがどんよりとしてしづんだ、新木あらき大桶おほをけみづいろは、うすあを
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)