碧空あおぞら)” の例文
よく晴れた冬の朝で高い高い碧空あおぞらをなにかしらぬ鳥が渡っている、彼はゆっくりと御宝庫の向うにある自分の詰所へと歩いていった。
日本婦道記:小指 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
豁然かつぜんと、心がひらけ、夢魔むまからめるのもつねであった。十方の碧空あおぞらにたいして、恥じない自分をも同時にとりもどしていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ブラマプトラ河畔の夜景 月はございませんでしたが碧空あおぞらにはキラキラと無数の星が輝いて居りまして、その星が水面に映じ川はその星を流して居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
葉子の家の裏あたりから、川幅は次第に広くなって、浪にただよっている海猫うみねこの群れに近づくころには、そこは漂渺ひょうびょうたる青海原あおうなばらが、澄みきった碧空あおぞらけ合っていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
文麻呂 (そっと友のかたに手を掛けて)よかろう、清原。僕は決してとがめ立てはしないぜ。いやむしろ君のその碧空あおぞらのごとく清浄無垢せいじょうむくなる心をとらえた女性の顔が一目おがみたい位だよ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
皆んなの眼は良海尼のよくり丸めた、碧空あおぞらのような頭に膠着こうちゃくしました。
凍って青く光っている、広い野の雪の色も、空気が透明で、氷を透して来たような光を帯びた碧空あおぞらに、日が沈んで行く。黄昏たそがれの空にも、その夕星ゆうずつの光にも、幾日も経たないうちに、馴れてしまった。
帰途 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
それが高くひろ碧空あおぞらに大きく輝いているのである。
はなしの話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きょうの如月きさらぎ碧空あおぞらを見るようなひとみも、あかくちも、白珠の歯も、可惜あたら、近日のうちには、土中になる運命のものかと思うと、見るに耐えないのであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、ちょうど十日ばかりここに逗留とうりゅうし、夜分などは実に素晴らしい雪と氷の夜景さえ眼を楽しましむるその中に、碧空あおぞらには明月が皎々こうこうえ切って居るです。いわゆる
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
真っ黄色なこずえを仰ぐと、木立の彼方に、秋の名残を燃えさかっている紅葉の稲葉山と、絶頂の城廓とが、くっきりと碧空あおぞらそびえて、斎藤一門の覇権を誇っていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霊妙不思議の仙境であるという深い深い感じが起ったです。その夜などは碧空あおぞらに明月が輝いてマパム・ユムツォの湖水にうつし、その向うにマウント・カイラス雪峰が仏のごとくズンと坐り込んでいる。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
と三たびほど息をかけて、術眼じゅつがんをとじた呂宋兵衛、その黄金の板へ、やッと、力をこめて碧空あおぞらへ投げあげたかと思うと、ブーンとうなりを生じて、とんでいった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆくては、本願の彼岸ひがん、波も打て、風もあたれ、ただ真澄ますみ碧空あおぞらへわれらの道はひとすじぞと思うてすすめ、南無阿弥陀仏なむあみだぶつの御名号のほか、ものいう口はなしと思え。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
碧空あおぞらだし、もあたっているのに、街道からよどの方には、あめが、にじのようにこぼれていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
各〻が、各〻のすがたを持ち、気ままに自由に屈託なく、碧空あおぞらをわがもの顔に戯れてゆく。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太守たいしゅを始め、御着一城の衆が悉く、毛利方に傾けば、姫路にある私の妻子老父はすべて即座に殺されるにきまっておりますから。……しかしです。官兵衛の心事はこの碧空あおぞらのごとく公明正大です。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ボーッと碧空あおぞらににじんで合図あいずをしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)