石室いしむろ)” の例文
半「そんな事を云ってもいかんよ、悪事を平気な泥坊とはいいながら、目をまわしたなりお蘭さんを此の本堂の下の石室いしむろの中へ生埋いきうめにしたね」
石室いしむろの中では、ほんの微かに、茶色の鈍い光線がしたように思われましたが、それは一瞬で、依然たる冷たいやみと沈黙があるのみです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少女は今までの衣裳を解き捨てて、いやしい奴僕ぬぼくの服を着け、犬の導くままに山を登り、谷に下って石室いしむろのなかにとどまった。
女神は、命のあまりの乱暴さにとうとういたたまれなくおなりになって、あめ岩屋いわやという石室いしむろの中へおかくれになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
真っ暗で何も見えはしないが、石室いしむろのような狭い部屋であるらしいことと、足音のしないように、底に藁屑わらくずが厚く敷き詰めてあることだけはお蔦にもよくわかった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「中は磨き上げた様な石室いしむろで、金銀珠玉は一杯だ、時価に積って何十万、イヤ何百万円あるかな」
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
なにがつて、こんなところになにわるいことでもした人間にんげんのやうに、だれをみても、かうしててつ格子かうしか、そうでなければ金網かなあみ木柵もくさく石室いしむろ板圍いたがこいなんどのなか閉込とぢこめられてさ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
雪のほかに、何一つ見えない大雪谿だいせっけいが、はるか下の方へのびている。向いの山も、まっ白であって、山小屋はもちろん、石室いしむろらしいものさえ見えなかった。そうでもあろう。
氷河期の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
山頂に立ったと云っても赤岳のてっぺんではなく、石室いしむろに近いその一部の尾根の上である。
大きな石室いしむろがあって、その入口に番兵らしい二三の者が戟を持って立っていた。李生はその前へ往った。戟を持った者は猿の顔をしていた。それは昨夜古廟の中で見た姿であった。
申陽洞記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その墓地というのは、S市郊外のある山の中腹を掘って、石垣を築き、漆喰しっくいで頑丈にかためた、二十畳敷程の、石室いしむろの様なもので、先祖代々の棺が、その中にズラリと並べてあるのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「オイ。給仕、控室の石室いしむろ君にチョット来てもらってくれ」
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
低い狭い石室いしむろの中は、墓場のようにしずまり返っていた。が、寂寞せきばく忽地たちまちに破られた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わしは見ていたぞ、この石室いしむろの鉄窓から。——毎夜毎夜お蝶と仲間ちゅうげんの龍平が、そこらの闇にみだらな恋をしていたのを。また、官庫の方であやしい挙動のあった事も、わしは残らず知っていた。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
所詮しょせんふたたびこの世へは出られないものと覚悟しながら、李は暗いなかを探りつつ進んでゆくと、やがて明るいところへ出ました。そこには石室いしむろがあって、申陽之洞しんようのどうというふだが立っています。
石室いしむろの中は八畳ぐらいな広さで、横に黒布のとばりを垂れ、帳の奥は二坪ばかりな板敷で、ヨハンが八年間使い馴らした椅子、食器、寝具などのほかに、馬糧小屋まぐさごやのようなワラがいっぱい敷いてある。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お杉は首肯うなずいた。市郎は一度消えた蝋燭に再び燐寸まっちの火をけて、暗い石室いしむろの中を仔細にてらしてたが、所々の岩の窪みに氷のような水を宿している他には、はり何物も眼にはいらなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
第三の石門には、扉のような大きな扁平ひらたい岩が立て掛けてあって、其下そのしたの裂目から蝦蟆ひきがえるのように身をすくめてもぐり込むのである。二人はかくの石門を這い抜けて、更に暗いつめた石室いしむろに入った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)