白昼まひる)” の例文
旧字:白晝
地隙ちげきを這い出る数億のありの行列の一匹一匹に青空一面の光りを焦点作らせつつジリジリと真夏の白昼まひるの憂鬱を高潮させて行った。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
明るい白昼まひるの日が隣りの屋根の古い瓦を照らして、どこやらで猫のいがみ合う声がやかましく聞えた。老人は声のする方をみあげて笑った。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と薪左衛門は、呻き声をあげたが、やにわに天国の剣を引き抜き、春の白昼まひるに現われた、「声の妖怪もののけ」を切り払うかのように、頭上に振り
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だが、ややおびえたらしい童心は、急に、白昼まひるの庭の広さが怖くなったらしく、あわてて、やかたの方へもどりかけた。と——また
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海には空想のひだがなく、見渡す限り、平板で、白昼まひるの太陽が及ぶ限り、その「現実」を照らしてゐる。海を見る心は空漠として味気がない。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
このとき空は雲晴れて、十日ばかりの月の影、くまなくえて清らかなれば、野も林も一面ひとつらに、白昼まひるの如く見え渡りて、得も言はれざる眺望ながめなるに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
もはや電燈がいて白昼まひるのごとくこの一群の人を照らしている。人々は黙して正作のするところを見ている。器械に狂いの生じたのを正作が見分けんぶんし、修繕しているのらしい。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
外国振とつくにぷりのアカシヤ街も見えぬ。菩提樹の下に牛遊ぶ「大いなる田舎町」の趣きも見えぬ。降りに降る白昼まひるの雪の中に、我が愛する「詩人のまち」は眠つて居る、げきとして声なく眠つて居る。
雪中行:小樽より釧路まで (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
弱った糸七は沓脱くつぬぎがないから、拭いた足を、成程釣られながら、そっと振向いて見ると、うれいまぶたに含めて遣瀬やるせなさそうに、持ち忘れたもののような半帕ハンケチが、宙に薄青く、白昼まひる燐火おにびのように見えて
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
死刑囚の佇ちゐる影をよこぎりて虫がらはこぶ白昼まひるの蟻は
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
白昼まひるの一刻一ときが、寂然しいんと沈んで、経ってゆく。
それであるから、白昼まひるのあかるい時には決してその被害はない。かれらはなんとか口実を設けて、いつでも暗い夜に相手をおびき出すのである。
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ハッと気が付いて眼を見開くと、痛いほどまぶしい白昼まひるの光線が流れ込んだので、私は又シッカリと眼を閉じてしまった。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
京都の夏祭、即ち祇園会ぎおんえである。夏の白昼まひるの街路を、祭のほこや車が過ぎた後で、一雨さっと降って来たのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
紅丸も来い、猪十郎も来い、方々みんなお立ちなされ、善悪不二、恩讐無差別、この甦生の白昼まひるの中で、大海を前に、大地に突っ立ち、さあさあみんな手を
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
獄窓の白昼まひるの明りみつめゐて部屋黒く見ゆるさびしき横臥
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
薄暗い白昼まひるの影が一つ一つに皆うつる。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四月も末に近い白昼まひるの日は、このたとえ難い混雑の上を一面に照らして、男の額にも女の眉にも汗がにじんだ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白昼まひるに人が殺されるなんて。……そうしてどうだろう殺した人の姿が、どこにもあたりに見えないなんて)
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山村の白昼まひる。山の傾斜に沿うた蔭の畠で、農夫が一人、黙々として畠をたがやしているのである。空には白い雲がうかび、自然の悠々たる時劫じこうの外、物音一つしない閑寂さである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
尤も程度は浅いがね……白昼まひるの往来を歩きながら、昨夜ゆうべ自分が女にチヤホヤされて、大持てに持てていた光景を眼の前に思い浮かめてニヤリニヤリと笑ったり、淋しい通りを辿たどってゆくうちにこの間
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
垂直に獄塀高き白昼まひるなり影なき土ゆ砂塵をあげて
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
白昼まひるとはいえ場所が場所——それも空井戸から燐火が燃えるの、屋根棟に女の姿が立つの、草原の中に白骨が、累々として積まれているのと、噂されているこの境地へ
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
謹慎つつしみの身である泰親が、白昼まひるの京の町を押し歩くということは憚りがあるので、彼は頼長から差し廻された牛車に乗って、四方のすだれを垂れて忍びやかに屋敷を出た。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
前と同様、南国風景の一であり、閑寂かんじゃくとした漁村の白昼まひる時を思わせる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
白昼まひるの秋の日は荒れた草むらを薄白く照らして、赤い蜻蛉とんぼうが二つ三つ飛んでいる。それを横眼にみながら彼は黙って俯向いていると、侍女どもは交るがわるに京の名所などを訊いた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すべての猛獣の習性として、胃の中の餌物えものが完全に消化するまで、おそらく彼はそのポーズで永遠に眠りつづけて居るのだらう。赤道直下の白昼まひる。風もなく音もない。万象ばんしようの死に絶えた沈黙しじまの時。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
時刻は白昼まひるで人通りも繁く、暖簾のれんにも長閑のどかに陽があたっていた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
停車場の前には百日紅さるすべりの大きい枝がさながら日除けのように拡がっていましたが、そのたくさんの花が白昼まひるの日にあかあかと照らされているのが、まぶしいほどに暑苦しく見えました。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二度目に人を斬ったのは、陽の当たっている白昼まひるであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白昼まひるではあるが山風は寒かった。人々は顔を見合わして物を云わなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
春三月、白昼まひるである。
首頂戴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)