ひら)” の例文
旧字:
それはナゼであるかと言うと、スミレなる小さい草がしおらしい美しい花を麗らかな春の野にひらいて軟かな春風にゆらいでいるからである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
向うづけに屋根裏高き磔柱はりつけばしらいましめられて、の下ひらきてひとの前に、槍をもて貫かるるを。これに甘んずる者ありとせむか、その婦人おんないかなるべき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひらきその領地たるカナダを押領せしめたるはまったく英人をしてその貿易の利を専有せしめんがためなりといえり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
諸家の増益はたんを梁の武帝の時に成つた陶隠居の集註にひらき、次で唐の高宗の顕慶中に蘇敬の新修本草が成つた。又唐本草とも云ふ。是は七世紀の書である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
すなはち橋を渡りてわづかに行けば、日光くらく、山厚く畳み、嵐気らんきひややか壑深たにふかく陥りて、幾廻いくめぐりせる葛折つづらをりの、後には密樹みつじゆ声々せいせいの鳥呼び、前には幽草ゆうそう歩々ほほの花をひらき、いよいよのぼれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
善光寺如来ぜんこうじにょらい御神籤おみくじをいただいて第五十五の吉というのを郵便で送ってくれたら、その中にくもさんじて月重ねて明らかなり、という句と、花ひらいて再び重栄ちょうえいという句があったので
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花がひらくのと同じで、万象の色が真の瞬間に改まる、槍と穂高と、兀々ごつごつした巉岩ざんがんが、先ず浄い天火に洗われてかたちを改めた、自分の踏んでいる脚の下の石楠花しゃくなげ偃松はいまつや、白樺のおさないのが
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
是は有名な事件で新聞紙などは焼死人一同の供養の為に義捐まで募った程で有ったが、叔父は共同墓地をひらき混雑した骨の中の幾片を拾い、此の国へ持ち帰って改めて埋葬したけれど
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
人跡稀な山奥の火葬場で人を焼くついでに、棺桶をひらいて目ぼしいものを奪い取る。
書けない探偵小説 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この雨収まらば、杜陵は万色一時にひらく黄金幻境に変ず可くと被存候ぞんぜられさふらふ
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
馭者は懐裡ふところさぐりて、油紙の蒲簀莨入かますたばこいれを取り出だし、いそがわしく一服を喫して、直ちに物語の端をひらかんとせり。白糸は渠が吸い殻をはたくを待ちて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは今藤陰解褐かいかつの事を記するに当つて、此問題を再検しようとおもふ。それは藤陰の孫国助さんが頃日このごろ其蔵儲の秘をひらいてわたくしに示したからである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人あるいは徳川幕府の顛倒てんとうを以て煩取苛求はんしゅかきゅう万民疾苦ばんみんしっくに堪えざるが故に、始めて尊王論をりて、その反抗の端をひらきたるものとなし、あたかも維新革命を以て仏国革命と同一視し
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
我邦では四国、九州の暖地山中に自生の木があって一重咲きの白花をひらくが、人家栽植の品には花色に種々あり花形に大小がある。葉もまた家植品は総体に闊くて厚いのが普通である。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)