ぐわ)” の例文
旧字:
ぐわの陳列せられる日に、その作者はうれしくもあり、また気恥しくもある思ひを抱きながら、ホイツスラアについて会場の門をくゞつた。
え立てのたゝみうへに、丸い紫檀の刳抜盆くりぬきぼんが一つてゐて、なかに置いた湯呑には、京都の浅井黙語の模様ぐわけてあつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
共にラフアエルの画集をひもどきて我、これらのぐわにある背景バツクの人酔はしむる趣こそ北伊太利イタリーあたりの景色を彼が神筆に写し取りたるものとか聞く。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さらば如何いかなる作品が、古くならずにゐるかと云ふに、書やぐわの事は知らざれども、文芸上の作品にては簡潔かんけつなる文体が長持ちのする事は事実なり。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
宮殿は博物館ミユウゼになつて居て各時代の戦争画を多くをさめて居る。ただぐわとしてはほとんど価値のない物だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
◎新宮さんは器用な人でたしか小龍とかいふお方の弟子だつた相でぐわも上手でしたが、或日女が丸はだかで居る絵を書て、腰の辺から股の中の事まですツかり画いて居りました。
其代りふでちつとも滞つてゐない。殆んど一気呵成かせい仕上しあげた趣がある。したに鉛筆の輪廓があきらかにいて見えるのでも、洒落なぐわ風がわかる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
画家のホイツスラアが、ある時友達にたのまれて、そのぐわの一つを画会の鑑別に通したことがあつた。
狩野芳涯かのうはうがい常に諸弟子しよていしに教へていはく、「ぐわの神理、唯まさ悟得ごとくすべきのみ。師授によるべからず」と。一日芳涯病んです。たまたま白雨天を傾けて来り、深巷しんかうせきとして行人かうじんを絶つ。
あるとき客が来て、詩だのぐわだのいろんな話をして帰つて往つたが、その後で許友は家の者に
さればかの明眸めいぼう女詩人ぢよしじんも、この短髪の老画伯も、その無声の詩と有声のぐわとに彷弗はうふつたらしめし所謂いはゆる支那は、むしろ彼等が白日夢裡はくじつむり逍遙遊せうえうゆうほしいままにしたる別乾坤べつけんこんなりと称すべきか。