産屋うぶや)” の例文
穀母が穀童を産み育ててゆく、そのために産屋うぶやの祭があり、二代目の穀物はその産屋でスピリット(魂)を穀母から受けるというのである。
故郷七十年 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そこでイザナギの命は「あんたがそうなされるなら、わたしは一日に千五百も産屋うぶやを立てて見せる」と仰せられました。
老尼君のためにだけはうれしいことと見えても、外見へは不都合であるために、南の町へ産屋うぶやを移す計画ができていた。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
彦火火出見尊ひこほほでみのみことのおきさきの豊玉姫が、海岸の産屋うぶやで御子鵜草葺不合尊うがやふきあえずのみことをお生みになった事は、誰も承知の有名なお話です。
ヴォワン・スチーヴンス説にマレー半島のペラック、セマン人懐妊すると父があらかじめ生まるべき児の名を産屋うぶや近く生え居る樹の名から採って定めおく。
桔梗は、産屋うぶやを離れたばかりであった。でもその日は、化粧を新たにして、母となったかいなに、珠のような男の子を抱いて、旅のつまを、中門のほとりで待ち迎えた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今度見つけた巣は一番上等だ。鷺の中でも貴婦人となると、産は雪の中らしい。人目を忍ぶんだな。産屋うぶやも奥御殿という処だ。」「やれ、罰が当るてば。旦那。」
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
香取秀真かとりほずま氏の古い歌に「おしいれの猫の産屋うぶやに雨もりて夜たゞ親鳴く子を守りがてに」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
白髪の鬼と化してこの世に再生したわしの産屋うぶやに相違なかった。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わが産屋うぶや野馬が遊びに来ぬやうに柵つくらせぬ白菊の花
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
産屋うぶや洩る初日影より、臨終のそくの火までも
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
わがたま の なやむ 産屋うぶや か。
御霊うぶや (新字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
藤房ふじぶされて小暗おぐら産屋うぶやかな
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ここに伊耶那岐の命、詔りたまはく、「愛しき我が汝妹なにもの命、みまし然したまはば、は一日に千五百ちいほ産屋うぶやを立てむ」
そこで立戻ってもう一度、何故に琉球列島の一部に、稲の蔵置場と人間の産屋うぶやとを、ともにシラと呼ぶ言葉が、残り伝わっているのかを考えてみたい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
産屋うぶやの騒がしい空気と自分とはしっくり合わない気がされてたびたびは来ないのですが、気分はどうですか。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
思うに太古に於いては必ず屋外に別に産屋うぶやを作って、そこで子を産んだに相違ありません。
(ご誕生の時には、産屋うぶや紫雲しうんたなびいて天楽てんがくが聞えたそうな)とか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この方から逆寄さかよせして、別宅のその産屋うぶやへ、守刀まもりがたな真先まっさきに露払いで乗込めさ、と古袴ふるばかま股立ももだちを取って、突立上つッたちあがりますのにいきおいづいて、お産婦をしとねのまま、四隅と両方、六人の手でそっいて、釣台へ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
産屋うぶや洩る初日影より、臨終のそくの火までも
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
タヤ(田屋)という語はある地方では産屋うぶや忌屋いみやを意味するが、もとはやはり出て耕作するのが名の起りらしい。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
妙法寺の別当の坊様が私の生まれる時産屋うぶやにいたのですってね。その方にあやかったのだと言って母が歎息たんそくしておりました。どうかして直したいと思っております
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
天皇上皇のきさき女御にょごともなり、一族、三公の栄位にならび、臣にして皇室の外舅がいきゅうともあがめられることはままあるならいなので、妊娠みごもった夫人が産屋うぶやにはいれば、藤氏とうしの氏神たる春日の社へ使をたてて
産屋うぶやなどへそんなお坊さんの来られたのが災難なんだね。そのお坊さんの持っている罪の報いに違いないよ。おしどもりは仏教をそしった者の報いに数えられてあるからね」
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
践祚せんそ大嘗祭の朝儀の最古最精確の現存記録であるが、この中にはすでに翌年播種の種子に対する心遣こころづかい、すなわち私たちのおうとする稲の産屋うぶや式作法しきさほうすこしも見えない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
親王がた、諸大臣家からもわれもわれもとはなやかな御祝い品の来るお産屋うぶやであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
子供が村に生れると氏子入りと謂つて、産屋うぶやの穢れの清まるや否や、人が抱いてお参りをさせる。大きな声で赤児の名を神に申し上げ、又は暫らく神前にねかせて置いて啼かせたりする。
祭のさまざま (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
やはり稲の産屋うぶやを意味する言葉が明らかにあとづけられることであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
産屋うぶやの祝いの派手はでに行なわれた様子などは書かないでも読者は想像するがよい。内大臣も玉鬘の幸福であることに満足していた。大将の大事にする長男、二男にも今度の幼児の顔は劣っていなかった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
子どもがこの木を組んで産屋うぶやというものを立てるという。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)