漱石そうせき)” の例文
だが、その短かい間の人気は後の紅葉よりも樗牛ちょぎゅうよりも独歩どっぽよりも漱石そうせきよりも、あるいは今の倉田くらたよりも武者むしゃよりも花々しかった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
本郷のごみごみした所からこの辺に来ると、何故なぜか落ちついた気がしてくる。一二年前の五月頃、漱石そうせきの墓にお参りした事もあった……。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
僕は砂利を敷いた門の中を眺め、「漱石そうせき山房」の芭蕉ばしょうを思い出しながら、何か僕の一生も一段落ついたことを感じない訣には行かなかった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たとえば、中学校の教師だって、その裏の生活は、意外にも、みじめなものらしい。漱石そうせきの「坊ちゃん」にだって、ちゃんと書かれているじゃないか。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかもその人極めてまじめにしていつも腹立てて居るかと思はるるほどなり。我俳句仲間において俳句に滑稽趣味を発揮して成功したる者は漱石そうせきなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
独歩だとか漱石そうせきとかいうものもあったが、トルストイ、ドストエフスキー、モオパサンなどの翻訳が大部を占め、中央公論に婦人公論なども取っていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その頃の氏の愛読書は、三馬さんば緑雨りょくうのものが主で、その独歩どっぽとか漱石そうせき氏とかのものも読んで居た様です。
私はこの春、漱石そうせきの長篇を一通り読んだ。ちょうど同居している人が漱石全集を持っていたからである。私は漱石の作品が全然肉体を生活していないので驚いた。
それならばかつて漱石そうせき虚子きょしによって試みられた「俳体詩」のようなものを作れば作れなくはない。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
漱石そうせきが一高の英語を教えていた時分、英法科に籍を置いていた私は廊下や校庭で行き逢うたびにお時儀じぎをした覚えがあるが、漱石は私の級を受け持ってくれなかったので
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
窓をあけぱなして涼しい風をれながら、先生からいただいて来た漱石そうせき研究をひざの上にひろげて、読むでもなく読まぬでもない気持で、時々眼をあげると、瀬戸内海だったりしたこともあった。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
漱石そうせきはどうですか?」
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
漱石そうせき先生の「夢十夜」のやうに、夢に仮託かたくした話ではない。見た儘に書いた夢の話である。出来は六篇の小品中、「冥途」が最も見事である。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしこの女らは無智文盲だから特にかうであると思ふ人も多いであらうが決してさういふわけではない。余が漱石そうせきと共に高等中学に居た頃漱石の内をおとづれた。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
またたとえば芭蕉ばしょう時鳥ほととぎすの声により、漱石そうせきくい打つ音によって広々とした江上の空間を描写した。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
漱石そうせき弟子の一人であって、とくに小宮こみや豊隆とよたか)さんや、森田もりた(たま)さんなどと、親しくしていたそうである。私も二十年前に、巴里パリでエリセーフ氏に大分厄介になったことがある。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
芹川さんは、学校に居た頃から漱石そうせき蘆花ろかのものを愛読していて、作文なども仲々大人びてお上手でしたが、私は、その方面は、さっぱりだめでございました。ちっとも興味を持てなかったのです。
誰も知らぬ (新字新仮名) / 太宰治(著)
僕は砂利を敷いた門の中を眺め、「漱石そうせき山房」の芭蕉を思ひ出しながら、何か僕の一生も一段落のついたことを感じないわけには行かなかつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
六尺のえんをへだてて広い座敷には、朱の毛氈もうせんがしかれ、真白まっしろな紙がちらばっていた。澄んだ秋の空気は、座敷の隅まではいって来た。そして床の間には、漱石そうせき先生の詩の双幅そうふくがかかっていた。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
出し物は、「助六すけろく漱石そうせきの「坊ちゃん」それから「色彩間苅豆いろもようちょっとかりまめ」。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
コレラが流行はやるので思ひ出すのは、漱石そうせき先生の話である。先生の子供の時分にも、コレラが流行つたことがある。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
久しぶりに漱石そうせき先生の所へ行つたら、先生は書斎のまん中に坐つて、腕組みをしながら、何か考へてゐた。
寒山拾得 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
観潮楼くわんてうろうや、断腸亭だんちやうてうや、漱石そうせきや、あれはあれで打ちめにして置いて、岡栄一郎をかえいいちらう氏、佐佐木味津三ささきみつざう氏などの随筆でも、それはそれで新らしい時代の随筆で結構ではないか。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
我々と前後した年齢の人々には、漱石そうせき先生の「それから」に動かされたものが多いらしい。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この日、避難民の田端たばた飛鳥山あすかやまむかふもの、陸続りくぞくとして絶えず。田端もまた延焼せんことをおそれ、妻は児等こらをバスケツトに収め、僕は漱石そうせき先生の書一軸を風呂敷ふろしきに包む。
僕は近頃そのせものの中に決して贋にものとは思はれぬ一本のあふぎに遭遇した。成程なるほどこの扇に書いてある句は漱石そうせきと言ふ名はついてゐても、確かに夏目先生の書いたものではない。
続澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)