滅法めっぽう)” の例文
喧嘩別れをして姉のところへ転げ込んだほどで愛嬌もあり人付きは滅法めっぽう良い方ですが、何かしら評判のよくないところがありました。
「それはもう御隠居様ごいんきょさま滅法めっぽう名代なだい土平どへいでござんす。これほどのいいこえは、かね太鼓たいこさがしても、滅多めったにあるものではござんせぬ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
万平は白粉おしろいの下から汗をブルブルと流した。ズッコケかかった昼夜帯を後ろ手で抱え上げ抱え上げ滅法めっぽう矢鱈やたらにお辞儀を返した。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
黒い疾風しっぷうが何かにぶつかりながら、へやを飛出し、闇の廊下をめくら滅法めっぽうに走った。そのあとを追って、「逃げた、逃げた」という狼狽の叫声。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
じりじり見るんだから定めし手間が掛かるだろうと思ったら大間違い。じりじりには相違ない、どこまでも落ちついている。がそれで滅法めっぽう早い。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そいつが切り髪の女なのか?」「へい、さようでございます。滅法めっぽうあだっぽいい女で、阪東しゅうかの弟子だそうです」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこのたまにもぐっていたのか、かれはクロを見るやいな、目の色かえて、めくら滅法めっぽう試合場しあいじょうへおどりだし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまり転がったので眼がまわって、めくら滅法めっぽうに逃げてるうち、ある橋のところへやってきて、道をあやまったものですから、あっというまに川の中へ落ち込みました。
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
……あっしは十手をあずかってから、もう十年の上になりますが、まだ、おぼえもねえような滅法めっぽうな話なので、いろいろ頭をひねってみましたが、かいもく見当がつきません。
何しろ滅法めっぽう安値やすい家で、立派な門構もんがまえに、庭も広し、座敷も七間ななまあって、それで家賃がわずかに月三円五十銭というのだから、当時まだ独身者ひとりものの自分には、願ったりかなったりだと喜んで
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
滅法めっぽう手先きが器用なんだよ、何でも世間じゃあ、変った彫りだといって、珍しがっているそうだが、彫り師の本体が、泥棒と知れた日にゃあ、大事にしてくれる者もあるまいが——それはそうと
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
酔いのまわった夷顔えびすがおをてか/\させて、「えへゝゝゝ」と相好そうごうを崩しながら、べら/\と奇警な冗談を止め度なく喋り出す時が彼の生命で、滅法めっぽう嬉しくてたまらぬと云うように愛嬌のある瞳を光らせ
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
上の窓からはちきれそうな顔をして、乳房をぎゅっとつつんだ百姓女が覗いておれば、下の窓からは、仔牛が顔をのぞけたり、豚がめく滅法めっぽう鼻面はなづらだけ突きだしている。要するに陳腐な光景である。
彼女あれがヴァンダの情婦いろだぜ、滅法めっぽうやつれやがったな」
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
清「滅法めっぽう寒くなったのう、相変らず酒か」
笑うと八重歯が少し見えて、滅法めっぽう可愛らしくなるくせに、真面目な顔をすると、きっとした凄味が抜身のように人に迫るたちの女でした。
かようにして、鉄管迷路のめくら滅法めっぽうな鬼ごっこがはじまった。逃げた、逃げた、汗びっしょりになって逃げまどった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お願いですお願いですと滅法めっぽう矢鱈やたら駄々だだねて聴かないのには往生した。死刑囚にはよくソンナ無理な事を云って駄々だだを捏ねる者が居るそうだがね。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「安いものさ、滅法めっぽう安い」チョロリと袖へ掻き込んだが、「オイ和泉屋、羽根が伸ばせるなあ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ついでだから一杯食って行こうと思って上がり込んだ。見ると看板ほどでもない。東京とことわる以上はもう少し奇麗にしそうなものだが、東京を知らないのか、金がないのか、滅法めっぽうきたない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おお、滅法めっぽう早う見えられましたな。さあ、これへ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「それじゃ今日の聞込みは俺の方が勝ちだ。石沢閑斎に娘が一人ある、お澪と言って、十八だが、これは滅法めっぽう可愛らしい娘だ」
「ほほう滅法めっぽうおとなしいの。ところで女は部落者さ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「親分、こいつは変っているでしょう。とって十九の滅法めっぽう綺麗な新造しんぞが仏様と心中したんだから、江戸開府けえふ以来の騒ぎだ」
「その遠眼鏡の中へ、いきなり滅法めっぽう綺麗な娘の顔がうつってとろけるようにニッコリしたとしたら、どんなもんです、親分」
滅法めっぽう可愛らしい娘ですが、去年の暮からはやし方の六助の世話で一座に、『一と眼千両』のお夢という太夫が入ったんです
滅法めっぽう暑かった年のことです。八朔はっさくから急に涼しくなりましたが、それでも日中は汗ばむ日が多いくらい、町の銭湯なども昼湯の客などは滅多にありません。
何の獲物もなく八丁堀まで引揚げた平次は(目黒川に若い女の死骸が浮いた、——若くて滅法めっぽう綺麗な女だが、首を半分斬られて、茣蓙ござで包まれている——)
柳原やなぎわらの土手下、ちょうど御郡代おぐんだい屋敷前の滅法めっぽう淋しいところに生首なまくびが一つ転がっておりました。
「なるとも、大なりだよ、字が滅法めっぽううまいから、掛り合いの人間の書いたのをいちいち突き合せりゃ、半日経たないうちに犯人ほしが挙がるよ、番頭さん、ちょいと見せてやろうか」
力があって男が好くて、鬼に金棒で、姿は近ごろ滅法めっぽう流行はやり伊達だてで、こいつばかりはうまくありません。——独り者ですとも、女出入りが多いからいまだに一人と言っても良いわけで
お秀の片頬には、意地の悪そうな——そのくせ滅法めっぽう魅力的な冷笑が浮ぶのでした。
「良い新造が、いきなり腰を抜かしたのをあっしも生れて初めて見ましたよ。——あれえ——とか何とか言って、ヘタヘタと泥の中によこずわりになった図なんてものは滅法めっぽう色気があって——」
「二十一二で、滅法めっぽう良い新造しんぞで——」