海老茶えびちゃ)” の例文
小使が行ってみると、若い先生が指を動かしてしきりに音を立てているかたわらに、海老茶えびちゃはかまけたひで子は笑顔えがおをふくんで立った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そんな園内を歩きながら、一人の、庇髪ひさしがみの、胸高に海老茶えびちゃはかまをつけた、若い女の人が私の母に何やら話していた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「おい、君、もう一杯ここでやって行こう。」と、海老茶えびちゃ色をした入口の垂幕たれまくを、無造作むぞうさに開いてはいろうとした。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その全体の服装みなりは、歌うがごとく燃ゆるがごとく、何ともいえない美しさだった。あおい色の薄ものの長衣をつけ、海老茶えびちゃ色の小さな役者靴をはいていた。
女は殊更ことさら肉を隠しがちであった。大抵は頭に護謨製ゴムせい頭巾ずきんかぶって、海老茶えびちゃこんあいの色を波間に浮かしていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒ずんだ海老茶えびちゃにところどころ青い線の見えるどっしりとした窓かけがしてあったけれども、それは半分ほどしぼってあったので部屋のなかはよく見えた。
五六年前には、式日しきじつ以外いがい女生のはかまなど滅多に見たこともなかったが、此頃では日々の登校にも海老茶えびちゃが大分えた。小学校に女教員が来て以来の現象である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
白きむちをもって示して曰く、変更の議罷成まかりならぬ、御身等おんみら、我が処女むすめを何と思う、海老茶えびちゃではないのだと。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
休憩椅子は海老茶えびちゃ天鵞絨ビロードの肌をひろげて、そばへ来る女の腰をしっかり受取ろうと用意していた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
海老茶えびちゃはかま穿かれた千世子殿が、風呂敷包みを抱えたままこの方丈ほうじょうに這入って来られまして
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
海老茶えびちゃはかま穿いて、大きな赤いリボンを頭の横っちょに結びつけて、そうして小さい手をしっかりと握り合って、振りながら、歌いながら、毎朝前の坂道を降りて行った。
元禄袖げんろくそでのセルに海老茶えびちゃのはかまをはき、一生懸命にゴムほおずきを口で鳴らしていた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
海老茶えびちゃか黒の、つばのないソンコ帽をかぶったマレー人の男の子、水色のスカートに白地のうすいカパヤ(ブラウス)を着た女の子が、今は何事もなかったように街を歩いている。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
女学生風の海老茶えびちゃ袴は、アア耐らない耐らないと身体を揉んで立ちあがると
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
海老茶えびちゃも勢力に成ったね」と原は思出したように。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
海老茶えびちゃとか庇髪ひさしがみとかに関係をつけると、あとではのっぴきならんことが起こって、身の破滅になることもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
自分は暖かい煖炉ストーブと、海老茶えびちゃ繻子しゅす刺繍ぬいとりと、安楽椅子と、快活なK君の旅行談を予想して、勇んで、門を入って、階段をあがるように敲子ノッカーをとんとんと打った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「私から——ええ私から——私から誰かに上げます」と寄木よせきの机にもたせたひじねて、すっくり立ち上がる。紺と、濃い黄と、木賊とくさ海老茶えびちゃ棒縞ぼうじまが、棒のごとくそろって立ち上がる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勅語の箱をテーブルの上に飾って、菊の花の白いのと黄いろいのとをかめにさしてそのそばに置いた。女生徒の中にはメリンスの新しい晴れ衣を着て、海老茶えびちゃ色のはかまをはいたのもちらほら見えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
うちにいると、海老茶えびちゃ繻子しゅすに花鳥の刺繍ぬいとりのあるドレッシング・ガウンを着て、はなはだ愉快そうであった。これに反して自分は日本を出たままの着物がだいぶよごれて、見共みともない始末であった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窓掛は海老茶えびちゃの毛織に浮出しの花模様をほこりのままに、二十日ほどは動いた事がないようである。色もだいぶめた。部屋と調和のない装飾も、過渡時代の日本には当然として立派に通用する。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤や、紫や、海老茶えびちゃの色が往来へちらばる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)