泥酔でいすい)” の例文
旧字:泥醉
この晩庄吉は泥酔でいすいしたのが失敗のもとで、夢遊歩行にせがれの寝床を乗りこえ女房のバリケードをのりこえて女学生めがけて進撃に及ぶ。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
意気込んで応じるのは、馬鹿のあわて者です。飲酒の作法は、むずかしい。泥酔でいすいして、へどを吐くは禁物。すべての人にあなどられる。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
クリストフは身動きもせず、耳をふさいで、メルキオルの泥酔でいすいした声や、近所の人たちの嘲笑ちょうしょう的な言葉を聞くまいとした……。
それゆえに、結局けっきょくへとへとになって、揚句あげく酒場さかば泥酔でいすいし、わずかにうつらしたのです。かれは、芸術げいじゅつ商品しょうひん堕落だらくさしたやからをもいきどおりました。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ま、まったく持ちまして、さいぜんのことは泥酔でいすいのあまりでござる。どうぞ、ひらにひらに、おゆるしのほどを……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
引き摺られながら、先刻から茫然として居った彦太郎は、次第に棄鉢な気持になりはじめ、今夜は無茶苦茶に飲んでぐでぐでに泥酔でいすいしたいと思った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
家へ帰れないときは、というのはあまり泥酔でいすいしたということであるが、源太は消防ポンプ小屋へもぐり込んで寝た。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
混乱した感情の狂いに泥酔でいすいして、事務長の部屋へやから足もとも定まらずに自分の船室にもどって来たが、精も根も尽き果ててそのままソファの上にぶっ倒れた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
泥酔でいすいして峠の道を踏んだ時、よろめいて一間ほどがけを滑り落ちた。まぶたが切れて、血が随分流れた。窪地くぼちに仰向きになったまま、すさまじい程えた月のいろを見た。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
泥酔でいすいしていても、新しい酒が腹にはいると、やはりいくらか活気がもどってくるらしかった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妻ハ人事不省デ先夜以上ニ泥酔でいすいシテイルヨウニ見エタガ、ソノ見セカケニモカカワラズ、昨夜ハ特ニ明瞭ニ、ソレガ彼女ノ芝居デアルヿ、実際ニハ意識ヲ持ッテイルノデアルヿガ
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
街の悪童の漫罵まんばの中に、泥酔でいすいした父親を背負って帰る屈辱感が、ベートーヴェンの負けじ魂を一層かたくななものにし、いばらの道を渋面作って踏み破る最初のスタートになったのであろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
泥酔でいすいしたあくる日いちにち、僕はきつねたぬきにでも化かされたようなぼんやりした気持ちであった。青扇は、どうしても普通でない。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
泥酔でいすいして一升ビンをぶらさげて酒ビンと一緒に墜落したよしで、この話をきいた時は私の方が心細くなったものだ。
頭がたえず働いて、泥酔でいすいから起こるいろんな悲しい出来事をあれこれと想像してやまなかったのである。
泥酔でいすいしたほかの侍たちも、こいつはいいなぶりものだという顔をして、そこを取りまく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は関田町の家で、夫や敏子のいない所であの人に会ってはいるけれども、いつも最も肝要な瞬間、———はだと肌とをり着けて相抱き合う時になると、たわいなく泥酔でいすいしてしまうのである。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はそのひとのお嬢さんにつまらぬ物をお土産として持って行って、そうして、泥酔でいすいするまで飲んで来るのである。
メリイクリスマス (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は恐怖のあまり氷のようになった。父の胸に息づまるほど抱きしめられ、酒臭い息や泥酔でいすい噯気おくびを顔に感じ、気味悪い涙や接吻にらされて、嫌悪けんおと恐怖とにもだえていた。
私はこの女を連れて落ちるところまでちてやろうと思った。私は落付いて飲みはじめた。女は飲まなかった。私は朝食前であったから、酔が全身にまわったが、泥酔でいすいはしていなかった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それに何よりも泥酔でいすいする程に酒を飲まぬのが、決定的にこの男を上品な紳士の部類に編入させているのであります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ほとんど毎夜のように、酔っ払ってもどって来、かせいだものを少しももち帰らなかった。それに稽古けいこ口もおおかた失っていた。ある時、まったく泥酔でいすいの姿をある女弟子の家に現わした。
泥酔でいすいの極に達し、一夜に医療費を飲みあげて意気高らかに家に帰り、あのおそるべき寝床に怖れ気もなくひっくり返り、電燈などが何じゃイと此奴もパチンと消してしまって悠々と眠り、目が覚めると
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
年少の友人ふたりを相手に泥酔でいすいしていて、ふとその女のひとに話しかけ、私たちの席に参加してもらって、私はそのひとと握手をした、それだけの附合いしか無かったのであるが
(新字新仮名) / 太宰治(著)
笠井氏は既に泥酔でいすいに近く、あたりかまわず大声を張りあげてわめき散らすので、他の酔客たちも興が覚めた顔つきで、頬杖ほおづえなんかつきながら、ぼんやり笠井氏の蛮声に耳を傾けていました。
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今夜これから、ことしの諸払いの算用を、ざっとやって見ましょう、と大福帳やら算盤そろばんを押しつければ、亭主は眼をしぶくあけて、泥酔でいすいの夢にも債鬼に苦しめられ、いまふっと眼がさめると
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)