もら)” の例文
いまかならずしも(六四)其身そのみこれもらさざるも、しかも((説者ノ))((適〻))かくところことおよばんに、かくごとものあやふし。
殿下は知事の御案内で御仮屋へ召させられ、大佐の物申上ものもうしあぐる度に微笑ほほえみもらさせられるのでした。群集の視線はいずれも殿下にあつまる。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかる事は持前なれども表へ出ては口のきける大屋に非ずことに寄たら當人へもらしてにがすも知れざれば彦兵衞殿の家主八右衞門殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
異時敵を軽んずすでに計にあらず、今日の折衝知るこれ誰なるかを。幽憤胸に満ちてもらす所なく、獄中血をそそいでこの詩を録す
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
久遠くをんのむかしに、天竺てんぢくの国にひとりの若い修行しゆぎやう僧が居り、野にいでて、感ずるところありてそのせいもらしつ、その精草の葉にかかれり。などといふやうなことが書いてあつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼は忍びやかに太息ためいきもらせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
斯う言つて、町会議員は今更のやうにひとの秘密をもらしたといふ顔付。『君だから、話す——秘密にして置いて呉れなければ困る。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さても同志の人々は小山田庄左衞門が逐電ちくでんせしを聞て大いに怒り追掛て討止うちとめんと云しを大石制して其身に惡事有れば夜討の事をもら氣遣きづかひなしと止めしがかねて申合せし四十七人十四日の夜全く本望を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いかなる町内の秘密をも聞きもらすまいとしているようなある商家のかみさんは大きな風呂敷包を背負って、買出しの帰りらしく町を通った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は一種の感慨をもって、何物を犠牲にしても生きなければ成らなかったような当時の心の消息をその中にもらした。彼は旅行記の一節にこう書いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其調子がいかにも皮肉に聞えたので、準教員は傍に居る尋常一年の教師と顔を見合せて、思はず互に微笑ほゝゑみもらした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こうお雪は嘆いて、力なさそうに溜息ためいきもらした。暫時しばらく、彼女は畳の上に俯臥うつぶしに成っていた。復たお房は泣出した。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四辺あたりには人も見えなかった。誰の遠慮も無いこの谷間で彼は堪らなく圧迫おしつけられるような切ない心を紛らそうとした。沈黙し鬱屈した胸の苦痛をそこへもらしに来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宗蔵の話が出ると、実は口唇くちびるんで、ああいう我儘わがままな、手数の掛る、他所よそから病気を背負って転がり込んで来たような兄弟は、自分の重荷に堪えられないという語気をもらした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼女はめずらしく晴々とした顔付で、まだ姿にも動作にも包みきれないほどの重苦しさがあるでもなく、わずかに軽い息づかいをもらしながら庭先の椿つばきの芽などを叔父に指して見せた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あるものは斯の飯山から彼様あんな人物を放逐してしまへと言ふし、あるものは市村弁護士に投票しろと呼ぶし、あるものは又、世にある多くの政事家に対して激烈な絶望をもらし乍ら歩くのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし畜生ながらに賢いもので、その日の失敗しくじり口惜くちおしく思うものと見え、ただ悄々しおしおとして、首を垂れておりました。二重※ふたえまぶちの大な眼は紫色に潤んで来る。かすかもらす声は深い歎息ためいきのようにも聞える。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)