“殿(しんが)” の例文
そして一番しまいに殿(しんが)りだとでもいうように大きな熊が一疋、無恰好な形をしてのそのそ列を追って行った。それは可笑(おか)しかった。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
戯作者(げさくしゃ)の殿(しんが)りとしては、仮名垣魯文と、後に新聞記者になった山々亭有人(さんさんていありんど)(条野採菊(じょうのさいぎく))に指を屈しなければならない。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
広場の中(うち)では、威風堂々の閲兵式の殿(しんが)りとして、ソヴェト共産党青年団、中華民国共産党青年団救護隊が通過した。
八五郎を真っ先に、三十人の同勢は、平次を殿(しんが)りに梯子を駆け降りました。が、綱一本で屋根から滑り降りる、蜘蛛男の軽捷さには及ぶべくもありません。
青楓君が一番にそれに乘つて、外の者が順順につづいた。殿(しんが)りのF君の外は皆んな口綱を取つてもらつた。
湖水めぐり (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
若手の芸妓が綱をとって花車(だし)が曳(ひ)き出され、そのあとへ、先頭が吉野(よしの)太夫、殿(しんが)りが傘止めの下髪(さげがみ)姿の花人(はなんど)太夫、芸妓の数が三、四十人、太夫もおなじ位の人数
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すればまだしも尋常(ひととほり)の憂悲歎(うきかなしみ)で濟(す)まうものを。チッバルトがお死(し)にゃった上(うへ)に、殿(しんが)りに「ロミオは追放(つゐはう)」。
若い見習看護婦を殿(しんが)りに、告別が一わたり済むと、児玉は再びつかつかと棺の横へ進み出た。そして、白い花に埋もれた妻の額に、じいつと手の平を当てがつた。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
彼らはねじり廻すように縺(もつ)れあってのろくさと歩いていた。そしてながい隊伍(たいご)をつくった。殿(しんが)りには荷を積んだ車があった。駄馬は尻を揺ぶって重い荷を牽(ひ)きだした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
しかし、庄平は殿(しんが)りより、のろ/\とスタートして走り出す。まず、運動場を一周する。
四つの都 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
大江山課長は先登(せんとう)に立つと、家の中に入っていった。帆村も一番殿(しんが)りからついていった。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此の時、木下藤吉郎承って殿(しんが)りを勤めた。金ヶ崎殿軍として太閣出世譚(ものがたり)の一頁である。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
最早(もはや)冬が僅(わずか)に残る赤城山頂の雪を殿(しんが)りとして、生れ故郷の遠い北のはてへ退却するに際し、南方からの敵の追蹤を暫し阻止する為に、大返しに返した最後の一戦とも云う可(べ)きもので
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
金ヶ崎で退却となり、退却の殿(しんが)りのいのちがけの貧乏籤(くじ)を木下藤吉郎と二人で引受ける。家康はかういふ気風の人で、打算をぬきに義をまもるといふ異例の愚かしいことをやり通した。
家康 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
政吉 (倒れている文太郎に注目し、殿(しんが)りの積りで、そろそろ引揚げかかる)
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
あっしは後(あと)かため殿(しんが)りの役ですから身内のもの七人と列について、いちばん最後から行きますと、本殿を出て、五丁ばかりも行ったと思うころ、浄杖(きよめづえ)の先になにかさわるものがありますンで
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ウインクレル氏が先頭で孝ちゃんが殿(しんが)りに。まん中の日本人三人がむやみに後滑りしていたが余りみっともよくなかった。電光形に正しく先頭の後を登って行くといよいよ初めての下りがきた。
五色温泉スキー日記 (新字新仮名) / 板倉勝宣(著)
殿(しんが)りをつとめるのは輜重(しちょう)で、その傍にさも物思わしげに、ぴょんと長い耳のついた頭をうなだれながら歩いている、一匹の飛切り可愛らしい面つきの畜生があったが——これはマガールという驢馬で
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
殿(しんが)りの看守がそれをガチャン/\閉めて行く。
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
殿(しんが)りは島田三郎。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
「もうすこしだ。殿(しんが)りの敵機が、せめてもう二十キロばかり、近くなったときに……」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
金ヶ崎で退却となり、退却の殿(しんが)りのいのちがけの貧乏籤(くじ)を木下藤吉郎と二人で引受ける。家康はこういう気風の人で、打算をぬきに義をまもるという異例の愚かしいことをやり通した。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
柳澤の運転するぼろフォードで葬列の殿(しんが)りをつとめたのだが、三の輪の車庫をすぎて間もなく、ごみごみした横町へ折れこんだ時から、彼はおびやかすやうな異様な感覚に襲はれつづけたのだ。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
と云って、殿(しんが)り戦を引き受けて大勝したのが、碧蹄館の戦である。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)