歯噛はが)” の例文
旧字:齒噛
これらの大名連は、毛唐と戦をするだけの勇気があるが、将軍様にはそれが無い——と言って、多くの人たちが歯噛はがみをしている。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すわとばかりに正行まさつら正朝まさとも親房ちかふさの面々きっ御輿みこしまもって賊軍をにらんだ、その目は血走り憤怒ふんぬ歯噛はがみ、毛髪ことごとく逆立さかだって見える。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その向うに消え残っている昨夜からの暗黒の中には、大小の歯車が幾個となく、無限の歯噛はがみをし合っている。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
泰二のやつはこっそり爪を伸ばしてた、むっつりなんとかで、へんに堅えような人間ほどゆだんのならねえもんだって、おりゃあしまったと歯噛はがみをしたぜ
源蔵ヶ原 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
昔から「歯噛はがみをなして」というのは腹を立てた人の形容ということに相場がきまっているくらいである。
チューインガム (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その間に農科の艇はこっちの右側を三艇身ばかりのところを「あと三十本、そら!」とか何とかけ声までして颯々さっさつと行き過ぎてしまった。皆は歯噛はがみをなしてそれを見送った。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
グイグイとピストルの筒口をつきつけられては、流石にそれ以上手向てむかう勇気はなかった。守はただこぶしを握りしめて、身体中から冷汗を流して、無念の歯噛はがみをするばかりであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「殺せ、殺してくれ」とかれが歯噛はがみをするのを聞き流して、暗い川面かわもをのぞいていた孫兵衛、一つ二つ軽く手を鳴らすと、いつかの晩のような約束で、三次の船がギイと寄ってきた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、歯噛はがみをしました。いくらちかられても、ちからはいらないあしをもどかしがりました。すると、今度こんどからだのようにあつくなって、みみが、ガンガンとり、なかまでかっかとしてきました。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
雪枝ゆきえは、思出おもひだすのも、口惜くやしさうに歯噛はがみをした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼は、切歯扼腕せっしやくわん歯噛はがみをして口惜しがったのだ。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
土神はまたきりきり歯噛はがみしました。
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
鼠というやつの憎さが骨身にとおって、取捉とっつかまえて噛み切ってやりたい。お浜は鼠をのろいつめて仏壇の方をにらめて歯噛はがみをする。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
多分歯噛はがみをして口惜くやしがっているのであろう。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、秋田平八は歯噛はがみをした。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
忠作は、一時、全く自分というものが、やっぱり低能児のお仲間でしかあり得ないのではないか、と歯噛はがみをしてみたのです。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お銀様は歯噛はがみをしました。その有様は、父に対して言い過ぎたという後悔が寸分も見えないで、なお一層の反抗心が募ってゆくように見えます。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この二人を並べて置いて斬るであろう——けれども竜之助は、刀へは手もかけないし歯噛はがみをしている様子もない。
ほんとに口惜しい、米友は無邪気で痛烈な歯噛はがみをする、米友の身にとればほんとに口惜しいに違いないのです。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
帯を結びながら、その白衣の男のあとをにらまえて歯噛はがみをしたのでした。水につかっていた時の心強さも清々すがすがしさも無残に塗りつぶされたごうのつきない身体からだ
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
単身を以てすれば猿に劣らぬ俊敏な米友も、こう多数を相手にしては、ドレを目当にらしていいか、わからないのであります。それで米友は歯噛はがみをしました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
痛みと、怒りと、口惜しさで、その夜中から金蔵は歯噛はがみをなしてうなり立てます。
鉄の棒を舞台に置いて来たことを歯噛はがみをして口惜くやしがるけれども、ここにはもはやむしろよりほかに得物えものがなくなってしまったから、やむを得ず莚をクルクルと捲いて、それを打振り打振って
道庵先生は、それと知った時に歯噛はがみをしたけれど、もう追附きません。
またかと言って歯噛はがみもしようし、その苦い経験から、道庵ひとりをうっかり小便にやるようなことはなかったでしょうが、庄公となると、まだなにぶん道庵扱いに馴れていないところへ、本来
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで、お角が歯噛はがみをして、お手水場の床を踏み鳴らしました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小間物屋は歯噛はがみをした。