松薪まつまき)” の例文
ふと、そのうちに人々は、彼女のべている細い枯木が、ただの松薪まつまきや雑木のようでなく、まことによく燃える木であることに気づいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜ松薪まつまきが山のようで、石炭が岡のようかと聞く人があるかも知れないが、別に意味も何もない、ただちょっと山と岡を使い分けただけである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なにしろさむくていかぬとて、焚火たきびなんかはしめて、松薪まつまき完全くわんぜん、これはえがいから珍品ちんぴんだなんてつてるのである。
その間召使が炉に松薪まつまきを投げ入れ、室内がぽっかり暖まってくると、法水は焔の舌を見やりながら、微かに嘆息した。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そこにはまた、あかあかと燃え上がる松薪まつまきの火を前にして、母屋を預かり顔に腕組みしている清助を見いだす。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今までからつ風の吹く店先へ出て、襦袢一枚で松薪まつまきを二十把ほども打ち割つてまゐつたのでございます。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、を敷いた床に人も見えず、ただ大きな炉の中に、ばちばちと松薪まつまきが燃え、その煙は、一つの窓からむうっと外へ吐き出されてくる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
香蔵と半蔵とは顔を見合わせて、それから京都にある師鉄胤かねたねなぞのうわさに移った。勝重は松薪まつまきを加えたり、ボヤを折りくべたりして、炉の火をさかんにする。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
真鍮しんちゅうの掛札に何々殿と書いた並等なみとうかまを、薄気味悪く左右に見て裏へ抜けると、広い空地あきちすみ松薪まつまきが山のように積んであった。周囲まわりには綺麗きれい孟宗藪もうそうやぶ蒼々あおあおと茂っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
瓦師かわらしは、帰化人の一観いっかんという唐人が担当していた。中国の焼法によるとかいう。その瓦焼の窯場かまばは湖畔にあって、夜も昼も、松薪まつまきのけむりを揚げていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男の友達と一緒に深い澤の方まで虎杖いたどりの莖などを折りに行き、『カルサン』といふ勞働の袴を着けた太助の後に隨いて、松薪まつまきの切倒してある寂しい山林の中を歩き𢌞り
松薪まつまきはちょうど燃えさかっていた。この母子おやこが、そこへ武蔵をともなって来たことは、やがてあれから、話し合った末、双方の誤解が溶けたものであろう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おふきが隣家まで行って帰って見たころには、半蔵とお民とが起きて来ていて、二人で松薪まつまきをくべていた。渡しがねの上に載せてある芋焼餅も焼きざましになったころだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どこからともなく、松薪まつまきのいぶる濃い煙が流れて来て、畑の中の梅の樹も、向うの母屋おもやも隠してしまう。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
土地柄らしく掛けてある諸講中こうじゅうの下げ札なぞの目につくところから、土間づたいに広い囲炉裏いろりばたへ上がって見た時は、さかんに松薪まつまきの燃える香気においが彼の鼻の先へ来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
留守中主人の家の炉でくだけの松薪まつまきなぞはすでに山から木小屋へ運んで来てあった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
薪山まきやまからりだした松薪まつまきの山を崩して、それをつかむと、火口ひぐちきっと覗いた若者。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松薪まつまきの火の粉と煙が、天井をち、いちめんの煙となった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)