有為ゆうい)” の例文
旧字:有爲
実は会社は世の有為ゆういなる青年に向かって入ってくれと頼むようにも思われる、いわゆる需要じゅよう供給きょうきゅうとの相互に応じ合ったことである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
故郷を立ち出づる前にも、わが有為ゆういの人物なることを疑わず、またわが心のよく耐えんことをも深く信じたりき。ああ、彼も一時。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼らは乱臣賊子の名をうけても、ただの賊ではない、志士である。ただの賊でも死刑はいけぬ。まして彼らは有為ゆういの志士である。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ひいたり睡眠不足に陥ったりするものがあるか知れない。それが皆中老以上の有為ゆういな人達だから、積って見ると随分国家経済に影響している
社長秘書 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかし高貴な有為ゆういな精神というものは、認識のもつ鋭いにがい魅力に対して、最も早く最も徹底的に、鈍感になるものらしい。
畢竟ひっきょう私の安心決定けつじょうとは申しながら、その実は私の朋友には正直有為ゆういの君子が多くて、何事を打任せても間違いなどいやな心配はいささかもない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
やかたは鬼の高利貸の手に処分されるようになり、若くて有為ゆういの身を、笹屋の二階の老隠居と具張氏はなってしまった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
孟州大街には、諸州の雑多な人物も集まるので、有為ゆういな男とみたらたすけ、かたがた、豪侠の気風を、この地におこさんなどの望みもあったわけなのでした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
非常に有為ゆうい多望な青年だとほめそやしたり、公衆の前で自分の子とも弟ともつかぬ態度で木部をもてあつかったりするのを見ると、葉子は胸の中でせせら笑った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けれども正作は西国立志編のお蔭で、この気象に訓練を加え、堅実なる有為ゆういの精神としたのである。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
老博士はなおしばらく、文字の霊の害毒があの有為ゆういな青年をもそこなおうとしていることを悲しんだ。文字に親しみ過ぎてかえって文字に疑を抱くことは、決して矛盾むじゅんではない。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
有為ゆういの士を心服させることのできないものが、この折助を使用する。歴然れっきとした旗本でありながら神尾主膳は折助を使用して、人をおとしいれなければならなくなったとは浅ましいことです。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此の左大臣が有為ゆういの材を抱いて早死はやじにをしたのは、積る悪業の報いであるように当時の人々は見たのであるが、就中なかんずくその報いの最たるものは、菅公かんこう怨霊おんりょうたたりであるとされたのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
当時の開国論者の多くは真の開国論者に非ず、ただ敵愾てきがいの気を失し、外人の恫喝どうかつ辟易へきえきし、文弱、偸安とうあん苟且こうしょの流にして、而しての鎖国論者中にこそ、かえって敵愾、有為ゆうい活溌かっぱつの徒あり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ぼくはいつもそれを思うと、われわれは感情にげきしたためにひとりの有為ゆういの青年を社会からほうむることになったことが実に残念でたまらん、人を罰するには慎重しんちょうに考えなければならん、そうじゃないか
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
有為ゆういなる人物を育てるようには、心がけた人がたくさんあったが、正しい人間を造ろうということには心のうちには、いずれも思っていたろうけれども
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その中に這入て居る書生は皆活溌有為ゆういの人物であるが、一方から見れば血気の壮年、乱暴書生ばかりで、中々一筋縄ひとすじなわでも二筋縄でも始末に行かぬ人物の巣窟そうくつ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いやいやながらはしを取って二口三口食うや、卒然、僕は思った、ああこの飯はこの有為ゆういなる、勤勉なる、独立自活してみずから教育しつつある少年が、労働してもうけえた金で
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
有為ゆういの青年に犬のお守をさせるような人間なら、大馬鹿に相違ないと思っているんです」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
多年、剣の究明に没入して、世事をかえりみなかったために、石舟斎は領地をも失ったが、その代りに心には不動の光明を点じ、周囲にはいつとなく有為ゆういな弟子が多く集まっていた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幕末からかけて五、六十年間、尊い血潮が流され、有為ゆういの士の多くが倒れている。
彼はこの天水郡冀城きじょうの人で、姜維きょういあざな伯約はくやくという有為ゆういな若者です。父の姜冏きょうけいはたしか夷狄いてきの戦で討死したかと思います。ひとりの母に仕えて、実に孝心の篤い子で、郷土の評判者でした。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀に有為ゆういの俊才を生じ、偶然にも大に社会を益したることなきにあらざれども、こは千百人中の一にして、はなはだ稀有けうのことなれば、この稀有の僥倖ぎょうこうを目的として他の千百人の後世を誤る
文明教育論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
渋沢は、歯痒はがゆい顔をした。軽蔑けいべつする以上の愍情びんじょうがわいて、腕ずくでも、この男を鞭撻べんたつし、発奮させて、有為ゆういな武士に仕立ててやらねばならぬと思った。それは友情だ、国家のためだと考えた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも、凡物なら知らぬこと、あなたのような有為ゆういな材が、こんな山中に早くから閑居なさろうとしても、それは世の中がゆるすことではありません。どうせいつかは御仕官になるにきまっている。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)