有勝ありがち)” の例文
それから熱がめて、あの濡紙をぐように、全快をしたんだがね、病気の品に依っては随分そういう事が有勝ありがちのもの。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お杉が評判の美人であるにもかかわらず、さかりを過ぎるまで縁遠いについても、山里には有勝ありがち種々しゅじゅの想像説が伝えられた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は第三者に有勝ありがちな無遠慮を以て、度々背後うしろを振り向いて見たが、お玉の注視はすこぶる長く継続せられていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
其上そのうへ御米およねわかをんな有勝ありがち嬌羞けうしうといふものを、初對面しよたいめん宗助そうすけむかつて、あまりおほあらはさなかつた。たゞ普通ふつう人間にんげんしづかにして言葉ことばすくなにめただけえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかも藝術家に有勝ありがちの芝居氣のまじらない純粹の人の愛が、一字一句に籠つてゐて、幾度繰返して讀んで見ても、自分は歡喜に伴ふ涙ぐましい程の心地を覺えるのである。
金側の時計が銀側の時計に変ったということは、三吉にはさほど不思議でもなかった。「正直なと見えるテ」と言われる三吉にすら、それ位のことは若いものに有勝ありがちだと思われた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしは只今江戸表より流罪になりました囚人めしゅうどでござります、只今一同の囚人の大騒ぎを見るに忍びず、一旦鎮め置きまして段々仔細を聞きましたるところ、囚人に有勝ありがちの食料のこと
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
といふのは、田舍の小學校にはよく有勝ありがちな奴で、自分が此學校に勤める樣になつて既に三ヶ月にもなるが、いまだ嘗て此時計がK停車ぢやうの大時計と正確に合つて居たためしがない、といふ事である。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
鬚髭ひげぐらい焼かれる間はまだしもだが、背中へ追いかかって来て、身柱大椎ちりけだいついへ火を吹付けるようにやられては、きゅうを据えられる訳では無いし、向直って闘うに至るのが、世間有勝ありがちの事である。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
信一郎は、青年のさうした心の動揺が、屹度青年時代に有勝ありがちな、人生観の上の疑惑か、でなければ恋の悶えか何かであるに違ひないと思つた。が、何う云つて、それに答へてよいか分らなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
この朝は誰も知っている通り、二百十日前後に有勝ありがちの何となく穏かならない空模様で、驟雨しゅううがおりおりに見舞って来た。広くもない家のなかはいやに蒸暑かった。
火に追われて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
といふのは、田舎の小学校にはよく有勝ありがちな奴で、自分が此学校に勤める様になつて既に三ヶ月にもなるが、未だかつて此時計がK停車場の大時計と正確に合つて居たためしがない、といふ事である。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
信一郎は、青年のそうした心の動揺が、屹度きっと青年時代に有勝ありがちな、人生観の上の疑惑か、でなければ恋のもだえか何かであるに違いないと思った。が、う云って、それに答えてよいか分らなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その晩は、私もほんの出来心で、——若い内に有勝ありがちな量見から。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)