新宿しんじゅく)” の例文
そは江戸時代の漢学者が文字もんじの快感よりしてお茶の水を茗渓めいけいと呼び新宿しんじゅく甲駅こうえきまたは峡駅きょうえきと書したるよりも更に意味なき事たるべし。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
集合場所は新宿しんじゅくの駅前になっていた。同じ仮面をつけた同じ仮装の人間が、その住宅から三人五人ずつ連れ立って集まってきた。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
毎週一回新宿しんじゅく駅で東北沢ひがしきたざわ行きの往復切符を買う。すると、改札口で切符切りの駅員がきっと特別念入りにその切符を検査するようである。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
労務を徴発する方法をつけ、まず市内の自動車数百だいをとりあつめて新宿しんじゅく駅につまれていた六千俵の米を徴発し、り災者へのたき出しにあてました。
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
花形大夫はながただゆうの二十世紀文福茶釜は、じつは彼が新宿しんじゅく露天ろてんで、なんの気なしに買ってきた、めしたきがまであった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
新宿しんじゅくをすぎ、中野なかのをすぎ、杉並すぎなみ区にはいりました。あたりは森や畑の見える、さびしい場所です。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
湯帰りに師匠のところへ行って、一番うなろうという若い衆も、今では五十銭均一か何かで新宿しんじゅくへ繰り込む。かくの如くにして、江戸っ子は次第にほろびてゆく。浪花節の寄席が繁昌はんじょうする。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
六十九人もの破戒僧が珠数じゅずつなぎにされて、江戸の吉原よしわらや、深川ふかがわや、品川新宿しんじゅくのようなところへ出入ではいりするというかどで、あの日本橋でかおさらされた上に、一か寺の住職は島流しになるし
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
壻は新宿しんじゅく岩松いわまつというもので、養父の小字おさなな小三郎を襲ぎ、中村楼で名弘なびろめの会を催した。いまだいくばくならぬに、小三郎は養父の小字を名告なのることをいさぎよしとせず、三世勝三郎たらんことを欲した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
乞食こじきも色々のが来る。春秋しゅんじゅうの彼岸、三五月の節句せっく、盆なンどには、服装なりも小ざっぱりした女等が子供をおぶって、幾組も隊をなして陽気にやって来る。何処どこから来るのかと聞いたら、新宿しんじゅくからと云うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もう十年も前から毎週一回新宿しんじゅく駅で買うことになっている切符が、ある年のある日突然いつもとはちがう手ざわりのするのに気がついた。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
時々は遠からぬ新宿しんじゅくへなりと人知れず遊びに出掛けたき心持にも相なり候へども、これまた同様にてらち明き申さず。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
品川方面ゆきの省線電車が新宿しんじゅく代々木よよぎ原宿はらじゅく渋谷しぶやて、エビス駅を発車し次の目黒駅へ向けて、およそその中間と思われる地点を、全速力フル・スピードで疾走していた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わけても、新宿しんじゅく駅前から塩町しおちょう辺にかけての街上一帯は日に日にその雑踏が激しくなるばかりだ。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
新宿しんじゅくまでは窓外の町並に見覚えがあったが、それから先はほとんど見当がつかなかった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしことによると前日新宿しんじゅくの百貨店で造花の売り場の前を通ったときの無意識の印象が無意識な過程を通じてこれに関係しているのかもしれない。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
当日の日曜日の朝は、みな暗いうちから大さわぎをして、リュックサックをせおい、水筒をさげ、おとうさまの古ステッキなどを持って、登山姿りりしく、新宿しんじゅく駅に集合しました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「僕もこれから新宿しんじゅくの駅まで用事があるんだよ。それでちょいと寄って見たんだ。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三角軒ドクトル・ヤ・ポクレの雨谷狐馬とは、いったいなんのことやらわけがわからないが、そこはその新宿しんじゅくというさかのことゆえ、わけのわからない人間もかなりたくさん歩いている。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
銀座ぎんざ新宿しんじゅくの夜店で、薄紙をはり合わせて作った角張ったお獅子ししを、卓上のセルロイド製スクリーンの前に置き、少しはなれた所から団扇うちわで風を送って乱舞させる、という
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
御仰おおせの通り昨年冬頃まで召使ひ候旨御答おこたえ申上候処、御役人申され候には、かの慶蔵事新宿しんじゅく板橋辺いたばしへん女郎屋じょろうやにて昨年来身分不相応の遊興致し候のみならず、あまつさへ大金所持致しをり候ゆえ
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
場所は、新宿しんじゅく駅から八王子はちおうじ街道を、西へ一キロ半ほど行くと、右に常楽寺じょうらくじという大きな寺がある。その寺のうしろの墓地のうらに、戦災でやられたままになっている大きなやしきのあとがある。
鉄塔の怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「やっと、新宿しんじゅくだッ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なんとならば、再びキャベツを用いたのでは、キャベツを用いたという質的レコードは破れないし、それかといってたとえばももんがあをかぶって新宿しんじゅくの通りを歩いてみても追いつかない。
記録狂時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わたくしは初め新宿しんじゅくのホールでつゆ子と友達になり同じ貸間にいた事や、それから同じ時につかまってダンサアの許可証を取り上げられて、市内ではどこのホールにも出られなくなったので
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それに新宿しんじゅく婆芸者ばばあげいしゃらしい女が一人乗っているばかりであった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
八月二十四日の晩の七時過ぎに新宿しんじゅくから神田かんだ両国りょうごく行きの電車に乗った。
破片 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「あなたも節約して電車になさいよ。ヤアさん。」と君江は丁度来かかった赤電車の方へとすたすた行きかけたので、矢田はとやかく言っている暇もなく、二人の後について新宿しんじゅく行の電車に乗った。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)