掩護えんご)” の例文
そして、土居先生の巧妙な監視に掩護えんごされつつ、あやか夫人は居室を忍びでて階下へ降り、内海さんをメッタ刺しに刺し殺して帰られた。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
むしろ、かくまう者にも、潜伏する者にも、気づよい掩護えんごを思わせているかも知れないのだ。清盛は、次第に、足が弾んでいた。
しばらくすると、急いで操縦された二個の砲は、角面堡かくめんほうに向かって正面から火蓋ひぶたを切った。戦列歩兵や郊外国民兵らの銃火も、砲兵を掩護えんごした。
その時刻までに、わが青軍の主力は、前夜ぜんや魚雷ぎょらいに見舞われて速力が半分にちた元の旗艦きかん釧路くしろ』を掩護えんごして、うまく逃げ落ちねばならなかった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その際初鹿野はじかの源五郎忠次は主君義信を掩護えんごして馬前に討死した。越軍の竜字の旗は、いよいよ朝風の中に進出して来る。
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
よいと云う牆壁しょうへきを築いて、その掩護えんごに乗じて、自己を大胆にするのは、卑怯ひきょうで、残酷で、相手に汚辱を与える様な気がしてならなかったからである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のみならずペリイは測量艇隊を放って浦賀付近の港内を測量し、さらに内海に向かわしめ、軍艦がそれを掩護えんごして観音崎かんのんざきから走水はしりみずの付近にまで達した。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土地のこの豊度、家屋のこの掩護えんごは、これら土地及び家屋の年々の収入を形成する。労働者は日々工場に労働し、弁護士・医師は日々その診療に従事する。
ザール鉱工業地帯の掩護えんご、特にオランダの中立尊重は、戦争持久のための経済的考慮によったのであります。
最終戦争論 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
事の次第では、威嚇いかくの爆弾投下を「実施」(当時の軍隊用語)して、地上部隊を掩護えんごしようというのである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
附添の若い男が、お角を掩護えんごするつもりで、船頭に武者ぶりついたけれど、腰が定まらないのに船頭の一突きで、無残に突き飛ばされて起き上ることができません。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
掩護えんご物のかげからかげに腰をかがめていく動作、トーチカを占領して万歳を絶叫する途端に腹をうたれて、ころころと土堤からころがりおちるところ——それらはみんな真にせまつてゐた。
(新字旧仮名) / 新美南吉(著)
女子はビヨルンソンの云つた様に『次第に人生に入込み来つた』暖かき感情のよりよき掩護えんご者である。かくの如き議論はかの甲乙の差別によつて天秤の価値を上下するが如きものではない。
恋愛と道徳 (新字旧仮名) / エレン・ケイ(著)
そして何物が掩護えんごせられてあるのか。その神聖なる場所は、岡村という男との差向いの場所ではないか。根岸で嬉しく思ったことを、ここでは直ぐに厭に思う。地をうれば皆しかりである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
狭い谷の重要な通路を掩護えんごしています。
夜な夜な河中の逆茂木を伐りのぞき、やがて味方の掩護えんご射撃のもとに敵前上陸へかかろうものと機をうかがっていた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
掩護えんごのために味方の打ち出した大砲が敵塁の左突角ひだりとっかくあたって五丈ほどの砂煙すなけむりをき上げたのを相図に、散兵壕さんぺいごうから飛び出した兵士の数は幾百か知らぬ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
佐々砲弾の「空の虱プー」の掩護えんごによって彼自身が風呂敷包の中からとりだした擬装爆弾ぎそうばくだん実はマグネシウム花火などを博士の門前に投げつけ岩蔵を巧みに門外におびき出し、その隙に乗じ
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は帝銀事件の犯人などにも、同様な家族的掩護えんごがあるのじゃないかと考える。
ヤミ論語 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
なにしろ武力の権を一手に握り、家康が選定した江戸の城に根を構え、譜代ふだい外様とざま掩護えんごのほかに、八万騎の直参を持っているのですから、そう一朝一夕に倒れるというわけにはいきますまいから
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敵の奇襲に対し倉庫の掩護えんごは容易ならぬ大問題であった。
戦争史大観 (新字新仮名) / 石原莞爾(著)
敵の掩護えんごか、味方の銃隊か。いや両岸から同時に撃ち出したといっていい。水にこだまして、耳もろうするばかりだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また当夜、諸所方々の夜空が、ぼうっと、妙に赤く見られたなども、それの巧妙な掩護えんごであったかもわからない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それゆえ、掩護えんごの船列もいたろうが、とうてい、秩序のある船出などではない。さきへ行く尊氏の船を目あてに、あとあとから、帆に帆を慕ッて行ったことだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上野介のすがたを探し求めて行く組の屋内戦と、それを掩護えんごしつつ目的の徹底を期してゆく組の屋外戦と——その時、もう吉良邸は、まったく坩堝るつぼの底と化していた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは蜀全軍に対して後の掩護えんごとなっておる。——それにひきかえ汝は備えの初めに、王平の諫めも用いず、我意を張って、山上に拠るの愚を敢えてしているではないか
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、凌振りょうしんは思った。砲手の働きは、味方の掩護えんごでしかない。自分にしろ梁山泊りょうざんぱくを実地に踏んで賊首の二ツ三ツは都の土産みやげにしなければ軍功になるまいとはやッたのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畠山重忠は、そう云われて、初めて味方の掩護えんごが、まだ手ぬるいものであった事に気がついた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
必死の掩護えんご射撃をむくいながら、尺歩丈進せきほじょうしん、押し詰め押し詰め、味方のかばねを塁として、徐々に大橋の半ば以上を踏み取り、やがて左馬介の号令一呼の下から、千余騎いちどに
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして頭上を通ッてゆく味方からの掩護えんご火箭ひやや矢叫びも、もう聞えず、あらゆる音震にも皮膚が無知覚になったとき、一つ一つの兵の顔は人間を脱して、眼と爪だけのものに変っていた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは国境第一の嶮路けんろである。加うるに友軍はみな漢中へ退いて、いわば掩護えんごのために、山中の孤軍となった二将であったが、趙雲子龍はさすがに千軍万馬の老将、おもむろに退却の準備にかかった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)