ばり)” の例文
主人のは成田屋ばりで、どうかすると仮白を真似た後で、「成田屋」という声を自分で掛けた。それが出る時は主人の機嫌きげんの好い時であった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
総じて松王は品格上々にて貫目も充分にあり、こたふるところも応へたれど、慾をいへば調子がどす一てんばりなるため、やや変化に乏きをうらみとす。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
又「いからつけろ、表の戸締りをすっぱりして仕舞え、一寸ちょっと明けられねえ様に、しんばりをかってしまいな、酒をつけろ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
迷亭の言葉が少し途切れる途端とたん、裏の方で「まだ鼻の話しをしているんだよ。何てえ剛突ごうつばりだろう」と云う声が聞える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御存じの烈しいながれで、さおの立つ瀬はないですから、綱は二条ふたすじ染物そめものをしんしばりにしたように隙間すきまなく手懸てがかりが出来ている。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯物主義一点ばりの血も涙もない生涯を送ろうと思っていた僕の信念が、貴女のお蔭で根柢からグラ付き初めたのです。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一生涯が間身を放たで持ちたりける、五人ばりにせきづる懸けて湿しめし、三年竹の節近ふしぢかなるを、十五束二伏ふたつぶせこしらへて、やじり中子なかご筈本はずもとまで打ち通しにしたる矢、たゞ三筋を手挟たばさみて
裏口からの客すらも、未だやって来ない、夜明け前の流し場に、ミチは熱い浴槽から出た薔薇ばら色の肉体をタイルばりの流し場にぐったりと投げ出す。立って、体中に石鹸せっけんの泡を塗りまくる。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
『色懺悔』というような濃艶な元禄情味をしたたらした書名が第一に人気に投じて、内容はさしてすぐれたものではなかったが、味淋みりん鰹節かつおぶしのコッテリした元禄ばりの文章味が読書界を沸騰さした。
「このごうつくばりめ」彼女はじりじりして、そう言ってののしった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「わが大巡洋艦はブリキばりである。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
玄関から座敷へ通つて見ると、寺尾は真中まんなかへ一貫ばりの机を据ゑて、頭痛がすると云つて鉢巻はちまきをして、腕まくりで、帝国文学の原稿をいてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
間もなくひつぎという四方ばりまないたせて焼かれてしまった。斎木の御新造は、人魚になった、あの暴風雨あらしは、北海の浜から、うしおが迎いに来たのだと言った——
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
超モダンな分離派式タイルばりの三坪ばかりの部屋の天井と四壁に、贅沢にも十数個の電球と、合計七個の大小の鏡を取附けた馬鹿馬鹿しいとも形容さるべき構造で
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
姉さんまで小父さんの成田屋ばりにかぶれて、そんなことを言うように成った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)