引越ひきこし)” の例文
この遷都せんとは、しかし、今日こんにち吾人ごじんかんがへるやうな手重ておもなものでなく、一をくだい慣習くわんしふによつて、轉轉てん/\近所きんじよへお引越ひきこしになつたのである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
ところが、末造がひどく簡単に考えていた、この引越ひきこしにも多少の面倒が附き纏った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
何でも私の処で普請をしために、新銭座しんせんざ辺は余程立退きがすくなかった。彼処あすこの内で普請をする位だから戦争にならぬであろう、マア引越ひきこしを見合せようといっ思止おもいとまった者も大分だいぶあったようだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
五十円ならばきっとやれますと立派に約束したそのそばから、殊には引く時前借の始末や引越ひきこしその他の物入をかけた後の事とて、そう手軽く月々の手当の増額を強請ねだるわけにも行かないと思うと
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『おじいさま、これから何所どこぞへお引越ひきこしでございますか?』
祝し合さて久藏言出けるにさて貴殿きでんには備前岡山なる城下によき奉公口ほうこうぐち有て主取なし給ふ由承まはりたるのみにて其後はえて音信いんしんも聞ず其中に我等は御當地へ引越ひきこしたれば猶以て御無沙汰ごぶさた打過うちすぎしに而て此の度如何なる故有て岡山より江戸には下り給ひしといふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此節参上可仕候所、引越ひきこし公私のさわぎ又々延引、重々恐悚きようしよう之至奉存候。御祝物進呈仕候。不日拝謁万々賀儀可申陳候。且又机永々恩借奉感謝候。是亦面上可申上候。乍憚令閨君えも御致声奉願候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
呼出よびいだされ吟味ありしかどもとより知らざる趣き明白めいはく也然れども外に心當こゝろあたりの者やある種々しゆ/″\尋問たづねらるゝと雖も一かう心當りもなしと申に奉行所に於ても其身が殺して己が家の前におくはずは無ければ通仙にあらぬ事は知れながら本人ほんにんいでざるゆゑ所拂ところばらひとなりしかば通仙は是非ぜひなく京都へ引越ひきこし苗字めうじ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長庵はつたとねめつけおのれ忠兵衞貴樣きさま餘程よほど愚痴ぐちなる奴かな如何に女房に未練みれんが有ればとて餘りににく仕方しかたなり此長庵がいきて居て心配なるとか又近所で安心あんしんならぬと思ふなら何所どこなりとも引越ひきこしなば仔細しさいは有るまじ勿論もちろんやけぼつくいには火のつきやすたとへも有れば不安心に思ふも道理もつともなり然し一たん勘辨かんべんした事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)