庄屋しょうや)” の例文
ちょうど、そこへ会所の使いが福島の役所からの差紙さしがみを置いて行った。馬籠まごめ庄屋しょうやあてだ。おまんはそれを渡そうとして、おっとさがした。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もし帯刀とその小姓をのぞけば、この近傍の庄屋しょうやとも変りはない。それほどに覇気はき衒気げんきのみじんも見えない人がらであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
領内の者どもは皆その善政をよろこんで、名主なぬし庄屋しょうやをたよつて遠方からその診察を願ひに出てくる者も多かつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
詳しいことは忘れたが、何でも庄屋しょうやになる人と猟師(加八かはちという名になっている)になる人の外に、狸や猪や熊や色々の動物になる人を籤引くじききできめる。
追憶の冬夜 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
村入りの雁股かりまたと申すところに(代官ばば)という、庄屋しょうやのおばあさんと言えば、まだしおらしく聞こえますが、代官婆。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三つの時孤児みなしごになり、庄屋しょうやであった本家に引き取られた銀子の母親も、いつか十五の春を迎え、子供の手に余る野良のら仕事もさせられれば、織機台はただいにも乗せられ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
代々庄屋しょうやの家柄の左平さへいをはじめ若者たちもその工事場へいってたのんだのであったが、ヤリウスは首を左右にふって、左内村の人間をただ一人もやといいれなかった。
時計屋敷の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その梵論字が志保田の庄屋しょうや逗留とうりゅうしているうちに、その美くしい嬢様が、その梵論字を見染みそめて——因果いんがと申しますか、どうしてもいっしょになりたいと云うて、泣きました
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
飛地の伊豆いず田方郡たかたごおりの諸村を見廻りの初旅というわけで、江戸からは若党一人と中間ちゅうげん二人とを供に連れて来たのだが、箱根はこね風越かざこしの伊豆相模さがみ国境くにざかいまで来ると、早くも領分諸村の庄屋しょうや、村役などが
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「ミイさんとこは金もちじゃし、富士子さんとこはおまえ、なんというたって庄屋しょうやじゃもん。あんな旦那衆だんなしゅうのまねはできん。じゃがな、もしもコトやんが行くんなら、小ツもやってやる。一ぺんコトやんと相談してこい」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
かみの庄屋しょうやが泊ろうか
博多人形 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
吉左衛門は広い炉ばたからくつろぎのの方へ行って見た。そこは半蔵が清助を相手に庄屋しょうや本陣の事務を見る部屋へやにあててある。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、いったというので、居あわせた郡吏ぐんり庄屋しょうやは、ひどくまごついた顔をしたということである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふもと連下つれくだつた木樵が、やがて庄屋しょうやに通じ、陣屋に知らせ、こおりの医師を呼ぶ騒ぎ。精神にも身体からだにも、見事異状がない。——鹿児島まで、及ぶべきやうもないから、江戸の薩摩屋敷まで送り届けた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼が贄川にえがわや福島の庄屋しょうやと共に急いで江戸を立って来たのは十月下旬で、ようやく浪士らの西上が伝えらるるころであった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
多宝塔たほうとうの上から、それをながめた呂宋兵衛るそんべえ、してやったりとほくそんで、塔のなかへ姿をかくしたが、まもなく金銀珠玉きんぎんしゅぎょくの寺宝をぬすみだして、庄屋しょうや狛家こまけへはこびこみ、野武士のぶし残党ざんとうどもに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あれはの、二股坂ふたまたざか庄屋しょうや殿じゃ。」といった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝飯を済ますと間もなく半蔵は庄屋しょうやらしいはかま草鞋わらじばきで、荒町にある村社までさくさく音のする雪の道を踏んで行った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
庄屋しょうやらしいはかまをつけ、片肌かたはだぬぎになって、右の手にゆがけかわひもを巻きつけた兄をそんなところに見つけるのも、お民としてはめずらしいことだった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼にはすでに旧庄屋しょうやとしても、また、旧本陣問屋としても、あの郷里の街道に働いた人たちと共に長い武家の奉公を忍耐して来た過去の背景があった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「金兵衛さん、君には察してもらえるでしょうが、庄屋しょうやのつとめもつらいものだと思って来ましたよ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
戸長(旧庄屋しょうやの改称)としての彼が遠からずやって来る地租改正を眼前に見て、助役相手にとかくはかの行かない地券調べのようなめんどうな仕事を控えているからであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
藩というものをそれぞれ背負しょって立ってる人たちは、思うことがやれる。ところが、われわれ平田門人はいずれも医者か、庄屋しょうやか、本陣問屋といやか、でなければ百姓町人でしょう。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
本陣、わき本陣、今は共にない。大前おおまえ小前こまえなぞの家筋による区別も、もうない。役筋やくすじととなえて村役人を勤める習慣も廃された。庄屋しょうや名主なぬし年寄としより組頭くみがしら、すべて廃止となった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この地方にできた取締役なるものの一人ひとりだ。神戸村の庄屋しょうや生島四郎大夫いくしましろだゆうと名のる人だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼が旧庄屋しょうや(戸長はその改称)としての生涯しょうがいもその時を終わりとする。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)