小遣銭こづかいせん)” の例文
旧字:小遣錢
貧乏咄をして小遣銭こづかいせんにも困るような泣言なきごとを能くいっていても、いつでもゾロリとした常綺羅じょうきらで、困ってるような気振けぶりは少しもなかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
実のところはおいらはモウ小遣銭こづかいせんもねえのだ、さしあたってなんとか工面くめんをしなけりゃならねえのだが、兄貴だって同じことだろう。
市場にやられる日には私は、まず、家の者の気づかない時を見計みはからって、そっと押入れの小遣銭こづかいせんはこの中から銅貨を七、八ツ盗み出した。
郷里を立つとき祖母は私にわずかばかりの小遣銭こづかいせんをくれていうに、東京には焼芋やきいもというものがある、腹が減ったらそれを食え。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「そんな事はどうでもいい。何分居候の身で出かけたいにもき物がない、笠がない。それに小遣銭こづかいせんの持ち合わせもない」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
譲吉が金の都合で、うしても応ぜぬ時などは、自分の小遣銭こづかいせんで、黙って買って来て、譲吉に内緒で縫って置いた。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
寿司談義は小遣銭こづかいせんが快調にまわるようになり、年も四十の坂を越え、ようやく口がおごって来てからのことになる。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
私は小遣銭こづかいせんの許す範囲で、古雑誌を買ったり、貸本を取り寄せたりして、いろんな空想を湧かしつつ読み耽った。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ときには少額だが小遣銭こづかいせんまで、そのエキストラ氏——本名か芸名かは知らないが、彼は磯島大八郎という名前だった——は、私に用立ててくれていたのである。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
乏しい小遣銭こづかいせんをはたいて、医者にもみて貰った。色々の医学の書物を買込んで、自己療法もやって見た。あるいは神仏を念じて、大好物のもちって病気平癒へいゆの祈願をさえした。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
政雄はそうして五六日就職口を探して歩いたが、思わしい口がないうえに小遣銭こづかいせんもなくなったので、もとじぶんの助手に使っていたことのある運転手のことを思いだして往ってみた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その節の土産みやげとして大枚だいまい金一円もらったことがある。そのころ僕の小遣銭こづかいせんは一週間に二十銭とまっていたからして、一円紙幣しへいを手にしたことはおそらくそのとき初めてであったろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一日の勤めに前後三日、どうかすると四日を費やし、あまつさえ泊まりの食物の入費も多く、折り返し使わるる途中で小遣銭こづかいせんもかかり、その日に取った人馬賃銭はいくらも残らない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ナニサそんな訳じゃアない、あの二人は叔父おじおいの間柄で、あの真赤まっか酔払よっぱらって居るのは叔父さんで、若い綺麗な人が甥だそうだ、甥が叔父に小遣銭こづかいせんを呉れないと云う処からの喧嘩だ」
そしてそういう書物を読むばかりでなく、僅かの小遣銭こづかいせんをつかってそれらの書物に説明してある実験を行い、また電気については簡単な起電機なども自分でつくってみたということです。
マイケル・ファラデイ (新字新仮名) / 石原純(著)
五人あれば二分二朱にもなるから小遣銭こづかいせんには沢山たくさんで、れが大抵たいてい酒の代になる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
途中三鷹の私の家に寄って素早くひげり大いに若がえって、こんどは可成りの額の小遣銭こづかいせんを懐中して、さて、君の友人はどこにいるか、制服制帽を貸してくれるような親しい友人はいないか
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
で、私もそれを自分の小遣銭こづかいせんに困っている時などは自分の財布さいふの中にしまい込んだこともあるが、さもない時はそのまま黙って主人の前に出した。
それに要する金銭の上に道庵は、若干の小遣銭こづかいせんを米友に与えて、お前も江戸は久しぶりだからそのついでに、幾らでも見物をして来るがよいと言いました。
それに、毒を呑ませやがったのも業腹ごうはらなんで、実は、お恥かしい話ですが、小遣銭こづかいせんも空ッぽのため、この二日ほどは食わず飲まずで、お米のやつを、探し歩いておりました。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伯母のお滝は例の如くから世辞せじを言っては金を借りて行き、その金を亭主の小遣銭こづかいせんにやったり自分らの口へおごったりしてしまったので、お松の病気のなおった時分には
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それに小遣銭こづかいせんを一ヶ月五円ずつ貰うことにしたから、そのうちで、二円の月謝と二円三十銭の電車賃とを引いて七十銭しか残らなかったけれど、ペンやインキを買うぐらいの余裕はあった。
「いやこれは、とんだご会釈えしゃくです。一同浪々の身なので、どいつもこいつも寒々しくお目に見えたかもしれませんが、じつは小遣銭こづかいせんならあり余っているのです。せっかくですが、ご斟酌しんしゃくなく」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小遣銭こづかいせんをねだりに来られたりするうちはまだいいが、万々が一、その親という奴がたちの良くねえ奴でもあってごろうじろ、それこそ親子の名乗りなんぞしなかった方が
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれど老女は来る者をこばむことなく、ことごとく自分の子供であるかの如く、その広い家を開放して彼等の出入りの自由に任せ、その窮した者には小遣銭こづかいせんまでも与えてやっているようです。