小刀さすが)” の例文
をつとはわたしをさげすんだまま、「ころせ」と一言ひとことつたのです。わたしはほとんどゆめうつつのうちに、をつとはなだ水干すゐかんむねへ、ずぶりと小刀さすがとほしました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一年まえのあの日以来、そんなことは初めてで、午後になってもずっと続け、きげんのいい顔で丸鑿まるのみ小刀さすがを使っていた。
四日のあやめ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
只今漸々だん/″\世の中が開けまして、外国の法に成りましたけれども今に残り居りまするのは、鋏でも、ちょっと十銭ぐらいの小刀さすがのようなものでも銘が打ってございます
これから大仁おほひとの町まで行つて、このあひだ誂へて置いたのみ小刀さすがをうけ取つて來ねばなるまいか。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「これ貰うて來たんや。」と言つて、大きなのを二つばかり、母に持つて歸つてやると、柿の好きな母は、何も知らずに、ほく/\喜んで、研ぎ減らした小刀さすがで、薄く細く長く皮をいた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
桂子は右手に小刀さすがを握ると、刃の先で左の腕を引いた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、そのさるのようなものは、彼と相手との間を押しへだてると、とっさに小刀さすがをひらめかして、相手の乳の下へ刺し通した。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから押しをして干し、鼈甲屋べっこうやへ渡すのであるが、斑のある部分と斑のないところを分けて切るところに、小刀さすがの使いかたがあるのだ、とおみきは云った。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これから大仁おおひとの町まで行って、このあいだあつらえておいたのみ小刀さすがをうけ取って来ねばなるまいか。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
再び小刀さすががきらりと光って、組みしかれた男の顔は、あざだけ元のように赤く残しながら、見ているうちに、色が変わった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、あの盜人ぬすびとうばはれたのでせう、太刀たち勿論もちろん弓矢ゆみやさへも、やぶなかには見當みあたりません。しかしさいは小刀さすがだけは、わたしのあしもとにちてゐるのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ところ其處そこると、をとこすぎしばられてゐる、——をんなはそれを一目ひとめるなり、何時いつふところからしてゐたか、きらりと小刀さすがきました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、あの盗人ぬすびとに奪われたのでしょう、太刀は勿論弓矢さえも、藪の中には見当りません。しかし幸い小刀さすがだけは、わたしの足もとに落ちているのです。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夫はわたしを蔑んだまま、「殺せ。」と一言ひとこと云ったのです。わたしはほとんど、夢うつつの内に、夫のはなだの水干の胸へ、ずぶりと小刀さすがを刺し通しました。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小刀さすがのどに突き立てたり、山の裾の池へ身を投げたり、いろいろな事もして見ましたが、死に切れずにこうしている限り、これも自慢じまんにはなりますまい。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
清八は得たりと勇みをなしつつ、圜揚まるあげ(まるトハ鳥ノきもいう)の小刀さすが隻手せきしゅに引抜き、重玄を刺さんと飛びかかりしに、上様うえさまには柳瀬やなせ、何をすると御意ぎょいあり。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)