かた)” の例文
あのひとの姉さんで、新潟の田舎へかたづいてるひとないかどうか、序に訊いといてよ。さうだつたらとても不思議な因縁があるんだから……
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
島田と別れてから二度目にかたづいた波多野と彼女との間にも子が生れなかったので、二人は或所から養女をもらって、それを育てる事にした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
信長様には、浅井家にかたづいているお妹君をかばうお心があるのみでなく、真実、妹むこの長政殿をも、愛しておられる。惜しんでおられるのだ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしそれとてもほんの一時のなぐさみであったらしく、間もなく同じ堂上方で、これも小鼓の上手ときこえた鶴原卿つるはらきょうというのへかたづくこととなった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
河村さんの娘が高森の写真屋にかたづいたのでその写真やに六日に来て貰って、ここの一族、野原の皆が写真をとります。そしたらお目にかけましょうね。
総領のお幾というのが弥吉という婿むこを迎えて、あとの娘二人はそれぞれよそにかたづいてしもうた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「和田さんの家は器量統きりょうすじで、その人も美しかったという話や。おさむらいから町家へおかたづきなすった」
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それからその下にもう一人できた腹違いの妹は二人ともかたづいていて、その三人の仕送りが頼りの父の暮しだと判ると、私はこの父といっしょに住んで孝行しようと思った。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それは日頃から話に聞いてゐた、今日あすに来るべき筈の、遠くへかたづいて行つてゐる宿の娘が今日やつて来たのだと思つた。其の女下駄の側には小さな子供靴が並んでゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
二人の子供の中で、姉は、去年隣村へかたづけた。あとには弟が一人残っているだけだ。
電報 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
古邸のさましか浮ばなかったので、たしかに、昨夜は、そう申しましたが、今日、見て歩いているうちに、気持が変ったんです……いずれ、千々子をかたづけなくてはならないのですが
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「もうどっかへかたづいているの?……柳沢さんそんなことをいっていたよ」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「わしの娘が、江戸へかたづいておりますので、そいつが心配で、心配で」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
涇川の次男にかたづいておりましたが、夫が道楽者で、いやしい女に惑わされて、私をかえりみてくれませんから、お父さんとお母さんに訴えますと、お父さんも、お母さんも、自分の小児こどもの肩を持って
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
祖父母は母屋を仕切って裏の方に隠居いんきょし、母から三番目の叔母は二里ばかり離れた町の商家にかたづき、小さい叔父は出家し、大きい叔父——私たちを迎えに来てくれた——が後をいで戸主こしゅとなり
だが、その恋を弊履へいりの如く打棄て、百万長者畑柳にかたづいた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
綾姫が鶴原家にかたづいたあとで、血統ちすじが絶えそうになったが綾姫の隠し子があったのを探し出して表向きを都合よくして、やっと跡目を立てたような始末であった。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「あれは、予科練から無事に帰つて参りまして、たゞ今、父の会社の方に勤めております。それから、小萩は、なんでございます……信州の方へかたずきまして……」
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
武蔵は、すれ違った一人の婦人へ振りかえっていた。もう七年も八年も見ない叔母であるが、たしかに、母方の播州佐用郷ばんしゅうさよごうから都へかたづいたというそのひとにちがいない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしがお暇いただく三日ほど前にお国の母様かかさまが、東京さあかたづいて居なさる上の娘さんげから送ってよこしたちゅうて紫蘇をこまあく切ってほした様なのをよこしなすったんですがない
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そうしてその布はこの間まで余のうちに預かっていた娘の子をかたづける時に新調してやった布団ふとんの表と同じものであった。この卓を前にして坐った先生は、えり襟飾えりかざりも着けてはいない。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お嬢さんは、もう十七でございますから、よい処がございますなら、かたづけたいと思います、そうなれば、私の重荷もおりますが、女の手では、思うようにならないで困っております、ほんとにそういう場合には、何人かしっかりした男のお友達が欲しいと思います」
狼の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
姉がまだ二人ともかたづかずにいた時分の事だというから、年代にすると、多分私の生れる前後に当るのだろう、何しろ勤王とか佐幕とかいう荒々しい言葉の流行はやったやかましい頃なのである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見るかげもない不遇な藤家とうけに、十五の年からかたづいていたので、まさしく相国の仇敵義朝の従妹いとこではあったが、清盛の眼には、そのために、無視されて、無事のうちに暮して来られたのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)