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奧齒
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おくば
内にのら/\として
居れば、
兩親は
固より、
如何に
人が
好いわ、と
云つて
兄じや
人の
手前、
据膳を
突出して、
小楊枝で
奧齒の
加穀飯をせゝつては
居られぬ
處から、
色ツぽく
胸を
壓へて
此間から
何かと
奧齒に
物の
挾まりて一々
心にかゝる
事多し、
人には
取違へもある
物、
何をか
下心に
含んで
隱しだてゞは
無いか、
此間の
小梅の
事、あれでは
無いかな、
夫れならば
大間違ひの
上なし
宗助は
此朝齒を
磨くために、わざと
痛い
所を
避けて
楊枝を
使ひながら、
口の
中を
鏡に
照らして
見たら、
廣島で
銀を
埋めた二
枚の
奧齒と、
研いだ
樣に
磨り
減らした
不揃の
前齒とが、
俄かに
寒く
光つた。