夫人おくさま)” の例文
鼻からおとがいまで、馬づらにだぶだぶした、口の長い、顔の大きな、せいは四尺にも足りぬ小さな神官かんぬしでござりましたそうな。ええ、夫人おくさま
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もしもし……貴方ロドリゲス? そう……電話が混線してますのよ……今日あたしルロイ・ソレル男爵の夫人おくさまにお眼にかかりましたのよ。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
余り貰ひ過ぎるので夫人おくさまも嬢様も心配なすつたが、呉れるものを断るわけにも行かず、断はつたとて持つて呉れば無下に返すわけにも行かず
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「水神様だなんて、神様じゃないよ、色の白い、夫人おくさまのような女じゃねえか、判らなかったかい」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「わけて陳宮という人の肚は分らないと、夫人も憂いていらっしゃいます。——将軍、お娘様こさまもおいとしいではございませんか。夫人おくさまや妾たちも不愍ふびんと思うてくださいませ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世帯持ちもよかろう。亭主に思われるに決まっていると、旦那様だんなさまから分に過ぎた御祝儀を頂いた。夫人おくさまからも半襟はんえりかんざしなどを頂いて、門の外まで見送られたくらいであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夫人がかたわらから「それでも狆はこんなに貌のしゃくんだ方が好いのだと申ます」トおっしゃると、昇も「成程夫人おくさまおおせの通り狆はこんなに貌のしゃくんだ方が好いのだと申ます」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
黒い立派な大きな門をもったこの邸の構内には、藤島さんという、伯父には長官にあたる造幣局のお役人のお宅があった。竹柏園ちくはくえん佐佐木信綱ささきのぶつな先生の夫人おくさまがそこのお嬢さんだった方だ。
今日結ひたての大丸髷も、うつむきめの艶やかに、縞絽の浴衣は、すらりと肩を流れし恰好、何としてこれが女教師上がりの夫人おくさまと思はるべき。笑みもこぼるる、青葉の雫、あれ御覧あそばしませ。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
夫人おくさま御気色みけしきが悪いとおっしゃって、さきほど御寝おしずまりになりました」
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
夫人おくさま、ただいま、お薬を差し上げます。どうぞそれを、お聞きあそばして、いろはでも、数字でも、おかぞえあそばしますように」
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「珍しい犬がいるって……ソレルの夫人おくさまから伺ったもんですからね、早速飛び込んで来ましたのよ、もう犬はいませんの?」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
夫人おくさまも嬢様もこの人だけには安心して交際つて在らツしやるが、素振にも出さない心根を察して見ると気の毒になる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「あ、大臣の、尾崎さんの夫人おくさまからなら、どうか明日みょうにち御覧においで下さいまして。」
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「ほんとに困っちまいます、私が云ってもだめですから、どうか夫人おくさまが」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「アノ丸髷にッた方は、あれは夫人おくさまですか」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「幽霊。……」と時次郎は呟き、「なるほど幽霊と見える、しからん風体です。夫人おくさま燈火あかりをずっと、はい、よろしい。おや、御邸の。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……私口惜しくて口惜しくて……ぜひ貴方にも手伝っていただいて、あの夫人おくさまの鼻を明かせて上げなくちゃならないって決心してしまいましたわ
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
此頃は何をしてゐるかといふと役所で局長様の鼻毛を数へ奉つた帰途かへりみちは俺の邸へ来て夫人おくさまから嬢様の御機嫌伺ひだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
どうか夫人おくさまがとは夫人おくさまが引き別けてやってくれと云うのであった。女はちょっと老人の方へ眼をやるようであったが、対手あいてにはならなかった。その時広巳は二人の対手をひざの下に押し敷いていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「オダンさまの夫人おくさま。」
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とたしなめられて不承々々、「こうこう夫人おくさまのお声がかりだ。あだおろそかには思うめえぜ、どうしたのだな。え、おい、どこか悪いか。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「在原の夫人おくさまばかりでは何にも売れはいたしませんよ。」「ナニ、まさか。」と口にはいえど、さもあらんという顔色かおつき
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
でも、お一方——一昨日おとといから、上州高崎の方だそうだけれど、東京にもすくなかろう、品のいい美しい、お嬢さんだか、夫人おくさまだか、わかい方がお一方……
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つきましてでござりますが、ええ、夫人おくさま、唯今はどうも、とんだお騒がしゅう、さぞまあ吃驚びっくり、お驚き遊ばしましてござりましょう。いや、とんだ事で。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それは夫人おくさま、いくらなんでもちっとはお痛みあそばしましょうから、つめをお取りあそばすとは違いますよ」
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、まあ、御安心を遊ばして御寝げしなりまし、と申しました処で、夫人おくさまは何も手前どものように、ちっともお驚きなりませんのでござりますから、別に。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、ちょっと待ってください。夫人おくさま、どうぞ、御堪忍あそばして」と優しき腰元はおろおろ声。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
撫子 夫人おくさまは、どこへおいで遊ばしたのでございますえ。早くお帰り遊ばせばうございますね。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(はい、ただいまあの爺様じいさんが、さよう申しましたように存じますが、夫人おくさまでございますか。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「早瀬の細君レコはちょうど(二十はたち)と見えるが三だとサ、その年紀としで酸漿を鳴らすんだもの、大概素性も知れたもんだ、」と四辺あたり近所は官員つとめにんの多い、屋敷町の夫人おくさま連が風説うわさをする。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はい唯今たゞいまあの爺様ぢいさんが、やうまをしましたやうにぞんじますが、夫人おくさまでございますか。)
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夫人おくさまが言いましけえ、お涼みなさりますなら雨戸を開けるでござります。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女郎花 あれ、夫人おくさまがお帰りでございますよ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女郎花 夫人おくさま。(と長煙管ながぎせるにて煙草たばこを捧ぐ。)
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)