大盥おおだらい)” の例文
身体検査にその女の身内熱きか否かをる法あり、大盥おおだらいに水の冷たいのを入れてその中に坐せしむると吸い込む故、それだけ水面が降る。
……城の石垣に於て、大蛇おおへび捏合こねおうた、あの臭気におい脊筋せすじから脇へまとうて、飛ぶほどに、けるほどに、段々たまらぬ。よつて、此の大盥おおだらいで、一寸ちょっと行水ぎょうずいをばちや/\つた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
幸いに井戸の水は良いので、七月から湯殿で行水ぎょうずいを使うことにした。大盥おおだらいに湯をなみなみとたたえさせて、遠慮なしにざぶざぶ浴びてみたが、どうも思うように行かない。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
風呂場は湯気で濛々もうもうとしていた。伸子は、裾を端折って、大盥おおだらいの中でつや子の体を洗ってやっていた。溶けた石鹸の香いや、水蒸気の熱い湿っぽさが、衣服を透していやな気持がした。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あさには患者等かんじゃらは、中風患者ちゅうぶかんじゃと、油切あぶらぎった農夫のうふとのほかみんな玄関げんかんって、一つ大盥おおだらいかおあらい、病院服びょういんふくすそき、ニキタが本院ほんいんからはこんでる、一ぱいさだめられたるちゃすずうつわすするのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
大盥おおだらいを抱えて来て、湯を運び「入浴しろ」とすすめるのである。あげくに理髪師がやって来て、きれいに結髪けっぱつし、肌着、袍衣うわぎまですっかり新調の物とかえて行った。いよいよ彼にはわけが分らない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大盥おおだらいを、玄関において、一杯、水を汲みこんでくれ」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
若い女の人が二人、洗濯物を大盥おおだらいすすいでいた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
が、——ことわざに、火事の折から土蔵の焼けるのを防ぐのに、大盥おおだらいに満々と水をたたえ、蝋燭ろうそくに灯を点じたのをその中に立てて目塗めぬりをすると、壁をとおして煙がうちみなぎっても、火気を呼ばないで安全だと言う。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、——ことわざに、火事の折から土蔵の焼けるのを防ぐのに、大盥おおだらい満々まんまんと水をたたへ、蝋燭ろうそくを点じたのをの中に立てて目塗めぬりをすると、壁をとおして煙がうちみなぎつても、火気を呼ばないで安全だと言ふ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)