噛合かみあ)” の例文
侍女七 はすの糸をつかねましたようですから、わにの牙が、脊筋と鳩尾みずおち噛合かみあいましても、薄紙一重ひとえ透きます内は、血にも肉にも障りません。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この女性の声が乱闘の中へ流れ込んだものですから、それで獣の噛合かみあいのような渦巻がいくぶん緩和されたものでありました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
通ると、犬が五六匹来やがって足へからまって投げられた、其の時噛合かみあった血だらけの犬が来やがって、己に摺附けたもんだから
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だいちうせう、三十七しゆ齒輪車しりんしやたがひ噛合かみあひ、吸鍔桿ピストン曲肱クンク方位盤ダイレクターたる諸種しよしゆ器械きかい複雜ふくざつきはめ、あだか聯成式れんせいしき蒸氣機關じようききくわんるやうである。
やがて気がついてみると、二機は互に相手の胴中を噛合かみあったような形になり、引裂かれた黄色い機翼をからませあい、白煙をあげ海面目懸けて墜落してゆくのが見えた。それが遂に最後だった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
股引ももひきようのものを穿いている、草色くさいろの太い胡坐あぐらかいた膝の脇に、差置さしおいた、拍子木ひょうしぎを取って、カチカチと鳴らしたそうで、その音が何者か歯を噛合かみあわせるように響いたと言います。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取憑とッついた男どもが、眉間尺みけんじゃくのように噛合かみあったまま、出まいとして、の下をくぐって転げる、其奴そいつを追っ懸け追っ懸け、お綾がさすると、腕へすべって、舞戻って、鳩尾みずおちをビクリと下って
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つばと泡が噛合かみあうように、ぶつぶつと一言ひとこといったが、ふ、ふふん、と鼻の音をさせて、膝の下へ組手のまま、腰を振って、さあ、たしかなべの列のちょうど土間へ曲角の、火の気のかっと強い
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この前歯の処ウを、上下うえした噛合かみあわせて、一寸のすきも無いのウを、雄や、(と云うのが北国ほっこく辺のものらしい)と云うですが、一分一寸ですから、いていても、ふさいでいても分らんのうです。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ななめに、がッくりとくぼんで暗い、崕と石垣の間の、遠く明神の裏の石段に続くのが、大蜈蚣おおむかでのように胸前むなさきうねって、突当りにきば噛合かみあうごとき、小さな黒塀の忍びがえしの下に、どぶから這上はいあがったうじ
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)