)” の例文
顔中一パイに湧き出した汗を拭いつつ、シャれた声でシャクリ上げシャクリ上げ泣く少女の背中と、若林博士の顔とを見比べた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まったく狙撃されたように飛び上ったほど——つまり私はびっくりしたんだが、いきなりしゃれ声の日本言葉ジャポネが私の耳を打ったのである。
伊織の声は、老婆みたいにシャれていた。兵庫は不審に思って、彼の鋭鋒を、そのなすがままに避けて、しばらく眺めていると、やがて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云う者があった、「だっておせんは私と結婚しているんだから——」変にしわれた低い声だが、部屋のすみずみまではっきりと聞こえた。
虫歯の歯並が悪い口元に笑ふと愛嬌あいけうがあつた。どこか男の子のやうで、少ししやれたやうな声も大人のやうに太かつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ある時は、三造に向って看護婦の面前で、「看護婦を殴れ。殴っても構わん」などと、憤怒に堪えかねた眼付で、しわれた声を絞りながら叫んだ。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
太いしゃれ声でいいながら、将軍さまのうしろにまわり、しごくもっともらしい顔つきで、ジャブジャブ背中を洗いはじめたから、こいつは奇観だ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
妖物ダムドシング?」と、彼は見かえりもせずに答えぬ。その声は怪しくうられて、かれは明らかにおののけり。
そしてしゃれた、胸につまったような声で、何事かしきりに云っているのであった。顔いっぱいに暑い日が当って汚れた額の創のまわりには玉のような汗が湧いていた。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
一々惟然ゐねん吟声しければ、師丈艸ぢやうさうが句を今一度と望みたまひて、丈艸でかされたり、いつ聞いてもさびしをり整ひたり、面白し面白しと、しはれし声もて讃めたまひにけり。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(云う声はしだいにうわれて、鬢髪びんぱつそよぎ、顔色すさまじ、下の方の木かげより以前の雨月忍び出で、息をのんで内の様子を窺う。玉虫はかくとも知らず、更に祭壇のかたを指さす。)
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そういう地声が、すこしシャれているところをみると、どうやらこの夫人の素性がわかるようだ。無論、風邪を引いてるんじゃあるまい。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の声は、鶏のようにシャれてしまった。おぎんは、どこにも見えないのだった。姉をよぶ声が次第に絶望的になってきた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子姓こしやうのやうな顔をして、乱暴な口を利きながら、教鞭けうべんの代りに二尺しを手にしてゐる雛子の前で、小型の餉台ちやぶだいに向つて、チビはしやれたやうな太い声をはりあげて、面白い節をつけて
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
香具師もいろいろだが、ここの空地でシャれ声を振りしぼッていたのは、三十がらみのせ浪人といった風な男。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一、この間、電話で聞いた白鷹氏の朗らかな音調と、今日会った白鷹氏のシャれた、沈んだ声とは感じが全然違っていた事を思い出したのであった。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
騎馬一団の士たちと共に、ひとしくこれへ退いて来た玄蕃允げんばのじょうは、手綱の一方もちぎれている朱の鞍から跳び降りると、叱咤しったにしゃれた声をしぼって
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると或る夜の事、三太郎君がウンウン唸る卵をふところに入れたまま、ウツラウツラと睡っているうちに、不意にどこからともなくシャれた声が聞こえて来ました。
(新字新仮名) / 夢野久作(著)
磯野丹波が、徳川勢と気づいて、しゃごえをふりしぼりながら、返せッ——と叫びかけた時、何者か、彼の横あいから、びゅッと水に濡れた一槍を繰り出した者がある。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヒッソリした家の中で汗を拭き拭きシャれた声を絞りつづけたので、人通りのすくない時刻ではあったが、一人立ち止まり二人引っ返ししているうちに、近所界隈の女子供や
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、声もしゃれ果てた号令が、敵方の谷間で聞えた。——藤吉郎もまた、真似まねるように
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はシャれた声を振り絞った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いきなり横合の樹陰こかげから跳び出した人影がある。しゃれ声ですぐ老人であることは分ったが、手には、槍を引っげ、はかまを高くくくし上げて、まるで夜叉やしゃのようなけんまくだった。
夕顔の門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小六はべッと唾を吐いて、忌々しそうに眉を吊り上げ、お延の肩を蹴飛ばしかけたが、その時表の方で客呼びの源七が、またもやしゃごえを振り立てはじめたので思い止まった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仏眼金輪ぶつげんこんりん五壇ノ法とか、一はん孔雀経くじゃくきょうとか、七ぶつ薬師熾盛光やくししきせいこう、五大虚空蔵こくうぞう、六観音、八字文殊、金剛童子ノ法などという、およそ聞くだに凄まじい咒法じゅほうばかりで、読経の声はシワ
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一刀、一刀、また一刀、くうを斬ってはさやにおさめる時のすさまじい彼の気合は、もうしゃれ果てて、何ものか世にあり得ない野獣の咳声しわぶきのようだった。のどはやぶれ手足は血によごれていた。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シャれ声をしぼって駈けまわっていたが、そのうちに、一ヵ所の陣幕のすそが、烈風にふきあおられてぱッとくられた刹那、チラと、その中にいた赤地錦の鎧直垂よろいひたたれと八龍の兜との人影を
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう高々とシャれた声をしぼっている香具師やしがある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄尊はここで、シワれた声に、ひと息入れた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)