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唯一人
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たゞひとり
かれらの
行爲は獸の如きその
性の
證とならむ、されば汝
唯一人を一の黨派たらしむるかた汝にとりて
善かるべし 六七—六九
アンドレイ、エヒミチはやつと
一人になつて、
長椅子の
上にのろ/\と
落着いて
横になる。
室内に
自分唯一人、と
意識するのは
如何に
愉快で
有つたらう。
砂の
上に
唯一人やがて
星一つない
下に、
果のない
蒼海の
浪に、あはれ
果敢い、
弱い、
力のない、
身體單個弄ばれて、
刎返されて
居るのだ、と
心着いて
悚然とした。
おまけに
小雨さへ
降り
出したので、
一先づ
怪しき
天幕の
下に、それを
避けて
居ると、
後の
畑にごそめく
音がするので、
見ると
唯一人、十六七の
少女が、
畑の
中で
草を
取つて
居る。
何か、
自分は
世の
中の
一切のものに、
現在、
恁く、
悄然、
夜露で
重ツくるしい、
白地の
浴衣の、しほたれた、
細い
姿で、
首を
垂れて、
唯一人、
由井ヶ
濱へ
通ずる
砂道を
辿ることを、
見られてはならぬ