咽喉笛のどぶえ)” の例文
するとその首は、殆んど音も立てないで、ポックリと折れた中から、竹の咽喉笛のどぶえがヒョイと出て来た……人を馬鹿にしたように……。
微笑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
片腕の影がすすり泣いていると思ったのは耳のあやまりで、ケケケッ! と、けもののように咽喉笛のどぶえを鳴らして笑っていたのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もしも文之丞があの諸手突もろてづきがきまったならば、竜之助の咽喉笛のどぶえを突き切られて、いま文之丞が受けた運命を自分が受けねばならぬ。
お浜さんが一応疑われるわけさ、が、正面から咽喉笛のどぶえへ突き立てた出刃でばが、後ろへ突き抜けるほど深く刺してあるんだぜ、全く恐ろしい力だ。
得心ずくで任せた顔だから、少しの怪我けがなら苦情は云わないつもりだが、急に気が変って咽喉笛のどぶえでもき切られては事だ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敵というかたきの、咽喉笛のどぶえに喰いついてやんねえ。曾我兄弟は十八年——おめえの苦心も、ずい分長いものだったなあ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
前部を折り曲げたカラーの間の咽喉笛のどぶえに、何ものかのみついた歯のあとがはっきりついて居たからである。
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「チョッ、何たらこッてえ、せめて軍鶏しゃもでも居りゃ、そんな時ゃあ阿魔あま咽喉笛のどぶえつッつくのに、」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何う云う訳か女の前に文売ふみがらのような物があって、山三郎が覗くとくだんの女は驚きまして山三郎の顔を見るとすぐそばにありました合口あいくちを取って今咽喉笛のどぶえを突きに掛りますから
教員の咽喉笛のどぶえをにぎっている校長が高飛車に申し渡し、——というのは——と一言註釈をつける——これは私の権限に属することでありまして私としては日常平素、諸君から受ける種々なる特質と
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そんなことをしやがったら咽喉笛のどぶえへくらいついてやる。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
咽喉笛のどぶえ、首っ玉さ噛りついてさ
百姓仁平 (新字新仮名) / 今野大力(著)
咽喉笛のどぶえに孤独のせきが鳴る
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
お玉が逃げ出したと見た捕方が追いかけようとする、真先まっさきの男に飛びついたムクは、咽喉笛のどぶえをグサとくわえて、邪慳じゃけんに横に振る。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
するとKは、「めてくれ」と今度は頼むようにいい直しました。私はその時彼に向って残酷な答を与えたのです。おおかみすきを見て羊の咽喉笛のどぶえくらい付くように。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二た太刀目が八五郎の咽喉笛のどぶえを狙って来る前に銭形平次の手からは久し振りの銭が飛びました。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
新吉はなんの事だかとんと分りませんが、致し方なく夜明け方に帰りますると、情ないかな、女房お累は、草苅鎌の研澄とぎすましたので咽喉笛のどぶえかき切って、片手に子供を抱いたなり死んで居るから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一寸ちょっと一目見ただけでも、あの浪人者なんぞは、お前さんの、扇子せんすがちょいと動きゃあ、咽喉笛のどぶえに穴をあけて、引っくり返るのは、わかっていたが、人気渡世が、初の江戸下りに、血を流すのも
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
気に入らないと俺の咽喉笛のどぶえでも何でもい切りかねないので、毎日毎日俺に手向い出来ない事を知らせるつもりで、思い切りタタキ散らしてやるんだが、実は恐ろしくて恐ろしくて仕様がないから
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
武士たるものは、不義ものを成敗せいばいするはかえって名誉じゃ、とこうまで間違っては事面倒で。たって、裁判沙汰にしないとなら、生きておらぬ。咽喉笛のどぶえ鉄砲じゃ、鎌腹かまばらじゃ、奈良井川のふちを知らぬか。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
並み居る役人も番卒も、一同に仰天ぎょうてんした。支えに行く間に、もう新兵衛はキリキリと引き廻して咽喉笛のどぶえをかき切り見事な切腹を遂げてしまった。
つるつるちゅうと音がして咽喉笛のどぶえが一二度上下じょうげへ無理に動いたら箸の先の蕎麦は消えてなくなっておった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二た太刀目が八五郎の咽喉笛のどぶえを狙つて來る前に錢形平次の手からは久し振りの錢が飛びました。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
と押伏せて咽喉笛のどぶえをズブリッと刺した。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ののしりながら、じだんだを五たびも六たびも踏みましたけれども、結局、出て行って追い払おうとするでもなし、咽喉笛のどぶえを抑えつけて鳴かせまいとするでもない。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、ほんの少し掻き切るつもりだったが、手元が狂ったのと、小唄の師匠で、咽喉笛のどぶえを避けたのがかえって悪かった。思わず手が滑って、深く切ったのが、あの通り急所だ
小石で気管をふさがれたようでどうしても万歳が咽喉笛のどぶえへこびりついたぎり動かない。どんなに奮発しても出てくれない。——しかし今日は出してやろうと先刻さっきから決心していた。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
主人が指図さしずして雇人が抱き起して見ると凄い、咽喉笛のどぶえを掻き切ったのは堺出来さかいできのよく切れる剃刀かみそりで、それをせこけた右の手先でしっかり握って、左の手を持ち添えて
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
帆柱の下で躍り上って、咽喉笛のどぶえの裂けるほどに再び叫び立てたのは船頭です。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)