名号みょうごう)” の例文
旧字:名號
祐天僧正の弘経寺にあった時かさねの怨霊を救った事、また境内の古松老杉鬱々うつうつたる間に祐天の植付けた名号みょうごう桜のある事などが記されている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この庫裡くりと、わずかに二棟、隔ての戸もない本堂は、置棚の真中まんなかに、名号みょうごうを掛けたばかりで、その外の横縁に、それでもかたばかり階段が残った。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文字はこれを読みうる人があって始めて有用になるのだが、それよりもさらに必要だったのは阿弥陀あみださまの御影みえい、ないしは六字の御名号みょうごうである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
奥の壁つきには六字名号みょうごうふくをかけ、御燈明おとうみょうの光ちら/\、真鍮しんちゅう金具かなぐがほのかに光って居る。みょうむねせまって来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼女らはそれぞれ泣き乱してはいたが、このとなると、一人も泣いていなかった。春渓尼の唇から洩れる名号みょうごうとなえに和しながらみなを合わせた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なほ六美女は当時十八歳なりしが、かねてより六字の名号みょうごうを紙に写すこと三万葉に及びしを、当来の参集にわかちしに、三日に足らずしてくせりといふ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
みんかしこまって六字の名号みょうごうしたためた。咲子は見ちゃいやよと云いながら袖屏風そでびょうぶをして曲りくねった字を書いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蓮如『は、は、は、は、まあ、そう恥しがらんでもよい。恋も因縁ずく。勧めもせられん代りにさまたげもせられん。ただ忘れてならぬのは六字の名号みょうごうじゃぞよ』
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
島は記念かたみのふくさを愛蔵して、真志屋へ持って来た。そして祐天上人ゆうてんしょうにんから受けた名号みょうごうをそれにつつんでいた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それ故この絵附をまた念仏にたとえてもよいでありましょう。念仏にも色々ありましょうが、誰も知るのは「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ」の六字の名号みょうごうとなえることであります。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すでに世間に宝物として遺存せるものの中に、糸引きの名号みょうごうと称するものあり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
上人は、その次に来た若い婦人には名号みょうごうの札を二枚やったのであります。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
友よ、お聴き下さい。わたくしは王者の崩御おかくれの時のように、使を遣わしてあなたの名を四風に叫ばしめようとするものではありません。王者はその名号みょうごうを遺し、その陵墓にその名の響を止めます。
極楽ねがわん人は、皆弥陀みだ名号みょうごうとなうべし
口に名号みょうごうをとなえ、指に水晶の数珠ずずをツマぐっているかと見えたが、やがて、寂阿じゃくあ入道菊池武時の首と隣して、死すとも父子一座として寄り添っているかのような
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
作る者も何を作るか、どうして出来るか、詳しくは知らないのだ。信徒が名号みょうごうを口ぐせに何度も唱えるように、彼は何度も何度も同じ轆轤ろくろの上で同じ形を廻しているのだ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
さあさあ、お望みとあらばこれから名号みょうごうを授けて上げる。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三河八名やな郡七郷村大字名号みょうごう字破魔射場
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
良人のいびきを聞きすまして、彼女は、肌着の奥から何か大事そうに取り出した。——それはいつか稲田の親鸞上人が、彼女のために書いてくれた六文字の名号みょうごうであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふいに耳をついた鉢ヶ峰寺の鐘の音に打たれて、二人とも蒼白な顔を鐘の行方に俯伏うつぶせた。二人の冷たい汗は、仏の名号みょうごうをとおして、無意識の罪を、一念に詫びていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)