反返そりかえ)” の例文
記者は玉子色の外套の隠袖かくしへ両手を入れたまま、反返そりかえって笑った。やがて、すこししおれて、前曲まえこごみに西の方をのぞくようにしながら
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ン、と反返そりかえるを抱き止めて、泰助きっと振返れば、柱隠しの姿絵という風情にて、床柱にもたれて立つ、あら怪しき婦人おんなありけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼の鼻の先が反返そりかえっているごとく、彼は剽軽ひょうきんでかつ苛辣からつであった。余はこの鼻のためによくへこまされた事を記憶している。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お浦自ら長三に劣らぬ悪人なりとは云え流石、女だけ、気の弱い所が有って、男ほどには行かぬと見え、此の語を発したまま気絶して、長椅子の上へ反返そりかえった。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ゼッフロア氏はこれを譬へて刀剣の反返そりかえりたる趣きありとなしたるはまことに言ひ得て妙なりといふべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と仰向けさまに反返そりかえる。清藏は驚いて抱き起しまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と大分横柄おうへい……中に居るもののひげのありなしは、よく其のかんで分ると見える。ものを云ふ顔が、反返そりかえるほど仰向あおむいて、沢の目には咽喉のどばかり。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
源は反返そりかえって笑いました。人間は時々心と正反対うらはら動作ことをやる——源の笑いが丁度それです。話好な書記は乗気になって
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あわれ乞食僧はとどめを刺されて、「痛し。」と身体からだ反返そりかえり、よだれをなすりて逸物いちもつ撫廻なでまわし撫廻し、ほうほうのていにて遁出にげいだしつ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
森彦は三吉をにらむようにして言ったが、しまいには自分でも可笑しく成ったと見えて、反返そりかえって笑った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
覗くは失礼と控えたのが、遁腰にげごしで水口から目ばかり出したと思うと、反返そりかえるように引込ひっこんで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急にお房は反返そりかえって、鼻を鳴らしたり、足でったりした。お雪は肥え太った子供の首のあたりへ線香の粉にしたのを付けた。お房は怒って、泣いた。乳房をくわえさせて、お雪は沈んで了った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新聞にてたたかれし口惜くちおしさと、綾子に対して言訳なさと、秘蔵の狆の不幸とが一時いっときに衝突して、夫人の剣幕さながらダイナマイトのごとくなれば、矢島は反返そりかえって両手を前に突出つきいだ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……姫松ひめまつどのはエ」と、大宅太郎光国おおやのたろうみつくにの恋女房が、滝夜叉姫たきやしゃひめ山寨さんさいに捕えられて、小賊しょうぞくどもの手に松葉燻まつばいぶしとなるところ——樹の枝へ釣上げられ、後手うしろでひじそらに、反返そりかえる髪をさかさに落して
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
亀姫 (ともに、瞰下す)先刻さっき私が参る時は、蟻のような行列が、その鉄砲で、松並木を走っていました。ああ、首に似た殿様が、馬に乗って反返そりかえって、威張って、本丸へ入って来ますね。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
綱に両手をかけて足をそろえて反返そりかえるようにして、うむと総身そうみに力を入れた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、黒闇くらやみがものを言うぜ。」と反返そりかえりしも道理なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ——」と反返そりかえる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)