其辺そのへん)” の例文
旧字:其邊
やが脊戸せどおもところひだり馬小屋うまごやた、こと/\といふ物音ものおと羽目はめるのであらう、もう其辺そのへんから薄暗うすぐらくなつてる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
道子みちこ其辺そのへんのアパートをさがして一人暮ひとりぐらしをすることになつたが、郵便局いうびんきよく貯金ちよきんはあらかた使つかはれてしまひ、着物きものまで満足まんぞくにはのこつてゐない始末しまつ
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
自分は聖影のおん前に何か祭壇が設けられて居るであらう、白絹しらぎぬや榊でいはひ清められて居るであらうと想つて居たが少しも其辺そのへんの用意が見え無かつたので
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
早速本を置いて入口いりぐちの新聞を閲覧する所迄出て行つたが、野々宮君が居ない。玄関迄出て見たが矢っ張り居ない。石階いしだんりて、首をばして其辺そのへんを見廻したがかげかたちも見えない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
往来の人達は、何かえたいの知れぬ不幸を予感しているとでもいった風に、抜足差足ぬきあしさしあしで歩いているかと見えた。音というものが無かった。死んだ様な静寂が、其辺そのへん一帯を覆っていた。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これでも本道楽だうらくの話になるかどうか、其辺そのへんは僕にも疑問である。
蒐書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其辺そのへんに誰も居なかったのか?」
ちょっと其辺そのへんを歩いて来るから」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
蘿月らげつは女房のおたきに注意されてすぐにも今戸いまどくつもりで格子戸かうしどを出るのであるが、其辺そのへん凉台すゞみだいから声をかけられるがまゝ腰をおろすと、一杯機嫌いつぱいきげん話好はなしずき
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
冬の日は分けて短いが、まだ雪洞ぼんぼりの入らない、日暮方ひくれがたと云ふのに、とどこおりなく式が果てた。多日しばらく精進潔斎しょうじんけっさいである。世話に云ふ精進落しょうじんおちで、其辺そのへんは人情に変りはない。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あの、親仁おやじ。……かね大島守おおしまのかみ取入とりいると聞いた。成程なるほど其辺そのへんもよおしだな。つもつても知れる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)