兵站へいたん)” の例文
「わが弟の袁術えんじゅつは、いささか経理の才がある。袁術をもって、今日より兵糧の奉行とし、諸将の陣に、兵站へいたんの輸送と潤沢じゅんたくを計らしめる」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから彼も必然的に頭山満とまじわりを結んで、濛々たる関羽髯かんうひげを表道具として、玄洋社の事業に参劃し、炭坑の争奪戦に兵站へいたんの苦労を引受けたり
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
家庭は社会の奮闘の中に置かれた自分及び自分の子弟の大本営であり、兵站へいたん部であり、練兵場である。従来は余りに家庭が社会と隔絶して居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
百姓は、矢玉の間に命がけで立働くには及ばない代り、柔順に物を生産して、軍隊の兵站へいたんを補充しなければならない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これだけの兵站へいたんをそろえて、そしてこれが、彼の——「十数年ノ後、全道ノ富貴、内地トソノ隆ヲ争フベシ」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
さて学校も出来人間も大概そろったが金がない。軍隊は戦争しようとするけれども、肝腎かんじん兵站へいたん部がない様な塩梅あんばいで、学校も財政のために非常に困ったのである。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
日露戦役後にける兵站へいたん衛生作業のあらまし、奉天ほうてん戦前後に於けるを当時の同僚安井氏の記したるを、頃日けいじつ『軍医団雑誌』といふのにのせ候趣にて、其別冊数部を送りこし候まゝ
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
コンチネンタル・ホテルなぞにふんぞりかへつてゐるがらでないなぞと、牧田氏も小さい声で相槌あいづち打ちながら、あんな大ホテルを兵站へいたん宿舎なぞにして、軍人が引つかきまはしてゐる事は
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
米国のある陸軍将校が、最近仏蘭西軍の兵站へいたん部を訪ねると、そこに居合はせた司令官の一にん、四十恰好の髯の美しい陸軍大佐は、愛想あいさうよく出迎へて、何くれとなく打明けて話してくれた。
一五六〇年から一八五〇年のあひだのものをあつめたものであるが、著者がかういふ題目、即ち、日本につぽんに興味をもち出したのは、兵站へいたん総監ジエエムス・ドラマンドといふ人のおかげだつたらしい。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
また兵站へいたんを考えれば、二日ふつか以後の食糧は、どこに求むべきか当てもつかず、冬が近づくが、兵士にくつのなき者が数千人、この秋風をしのぐに毛布なき者が数万人である。しかしいくさ成敗せいはいは天にる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「お蔭で我々が久し振に大牢たいろうあじわいに有り附いたのだ。酒は幾らでも飲ませてくれたし、あの時位僕は愉快だった事は無いよ。なんにしろ、兵站へいたんにはあんまり御馳走ごちそうのあったことはないからなあ。」
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此奴こやつ狡猾ずるい奴だ」と、兵站へいたん係の衣水いすい子、眼玉を剥き出し
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
兵站へいたん宿舎に泊るときの格づけとして
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ここを全軍の基点として、勝龍寺を後方の補給兵站へいたん基地とし、さらに西南方の淀から円明寺川の一線を扇なりに引いた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
百姓は、矢玉の間に命がけで立働くには及ばない代り、柔順に物を生産して、軍隊の兵站へいたんを補充しなければならない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実を申しますと私はツイ一週間ばかり前に、あの日本軍の兵站へいたん部の門前で、あなたをお見かけした時から、ゼヒトモ一度ゆっくりとお話ししたいと思っておりましたのです。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
のちには吉原の西の宮と云う引手茶屋と、末造の出張所とは気脈を通じていて、出張所で承知していれば、金がなくても遊ばれるようになっていた。宛然えんぜんたる遊蕩ゆうとう兵站へいたんが編成せられていたのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
それにせよ、当時の軍旅や兵站へいたんからすれば、たいへんなものだろう。——そして日数からみても、遅くはなかった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漢中の定軍山はすなわち南鄭なんていの要害、敵の兵站へいたん基地である。もしこの山を奪わば陽平の一道は、心にかかるところなし、汝らゆきて、これを攻略すべきか、如何
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竈の跡の多いのは当然、兵站へいたんの増量を示すものであるから、仲達はいちいちそれを検分して
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
短気で鳴っている秦明も、いまはただ呶号どごうに呶号するばかりだった。怪我人を谷から拾い集めて一たん野営の場へひきあげた。そして休息ついでに早目な晩の兵站へいたんに夕煙を揚げはじめた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬にはくさを飼い、兵は朝の兵站へいたんせわしない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)