六部ろくぶ)” の例文
「ばかな六部ろくぶめ。よけいなところへして、かみさまのおばつをうけたにちがいない。そのたたりがむらにかかってこなければいいが。」
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
おう、坂部十郎太さかべじゅうろうたか。たかが稚児ちごどうような伊那丸いなまる六部ろくぶの一人や二人が、おりをやぶったとて、なにをさほどにうろたえることがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「俺アこれから六部ろくぶになって、今までに命を取った鳥けだものや、おしゅんの後生ごしょうをとぶらいながら、日本国中を経めぐって来る」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは全然まるで作物語つくりものがたりにでもありそうな事件であった。或冬の夕暮に、放浪さすらいの旅に疲れた一人の六部ろくぶが、そこへ一夜の宿を乞求めた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
弾くと、巡礼の出雲屋さんと、六部ろくぶになった倉松さんの笈摺から、酒肴が出るという寸法で
何でもよほど山奥らしいのですが、疲れきった男女の六部ろくぶが嶮しい崖縁で休息やすんでいる処から始まるんです。頭上には老樹が枝をかわしていて薄暗く、四辺あたりは妙にしいんとしている。
むかでの跫音 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
遠野の町の後なる物見山の中腹にある沼に行きて、手をたたけば宛名あてなの人いでべしとなり。この人け合いはしたれども路々みちみち心に掛りてとつおいつせしに、一人の六部ろくぶに行きえり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
東京に行った隣の友吉の姿も、寺の御堂にかゝっている蜂の巣も、或る夕暮方、見た六部ろくぶの姿を考えるとなしに、じっと一点に集って葉の上に光っている太陽の焼点の中に映っているような気がした。
感覚の回生 (新字新仮名) / 小川未明(著)
六部ろくぶ道心だうしん、わかあまのうれひしづしづ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
夕まよひ、六部ろくぶのひとり
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
けれども六部ろくぶは、あまりはたらいていきれて、気絶きぜつしただけでしたから、みんながこして介抱かいほうすると、たちまちいきかえしました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
裾野すそのやみに乗じられて、まんまと、六部ろくぶ龍太郎りゅうたろうのために、大せつな主君を、うばいさられた、かれの無念むねんさは思いやられる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前の弁財天のかたわらの、ごく細い道のところまで辿たどって来たのを、よく見ると、手には何やら杖をついて、面は六部ろくぶのような深い笠でかくし、着物は修験者が着る白衣の
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おちうどか、ほたや、六部ろくぶ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その中でいちばん大きい、猅猅ひひのようなかたち大猿おおざるを、しっかりとさえつけたまま、六部ろくぶもしっぺい太郎たろうたおれていました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「数年前、京の九条の松原で会った一ノ宮源八でござるよ。その折は、六部ろくぶの姿でござったから、お見忘れもむりはない」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おお、あれはいつの年か、このへんでたたかいのあったとき焼けのこった文殊閣もんじゅかくにちがいない。もしかすると、六部ろくぶも、あれかもしれぬぞ……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
巡礼だか六部ろくぶだかになりやがって、仮病けびょうをつかってこのやしきの前に倒れたなあうぬの手段だ。そんなことはこの百助が、三年も前からにらとおしているんだぞ。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故郷ふるさとへまわる六部ろくぶの気の弱り——で、お十夜がこの際寸閑すんかんをぬすんで、郷里をのぞいたことは、ようやくかれの放縦ほうじゅうな世渡りと、そぼろ助広の切れ味に、さびしいとうが立ってきたのを語るものである。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)